一溜ひとたま)” の例文
日本が更に一指の力を加うれば一溜ひとたまりもなく潰乱かいらんすると思った。それが抑々かの三国干渉の来った有力なる一因である。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
彼奴きゃつたむろさぬうち、切崩きりくずさば、何の一溜ひとたまりもあるべき。天下の雌雄しゆうを決し、われらが大志を果すとき、この節到来。今ぞ到来ぞや。——怠るな各〻
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「君が首になるようなら、張本人の僕達は一溜ひとたまりもない。考えても見給え。僕達だって首は大切だいじなんだからね」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たれを見ても、先ず松陰先生を差向けて見ると、一人として手応てごたえのある人物はない。皆一溜ひとたまりもなく敗亡はいもうする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
中にも、ぬしというものはな、主人あるじというものはな、ふちむぬし、峰にすむ主人あるじと同じで、これが暴風雨あらしよ、旋風つむじかぜだ。一溜ひとたまりもなく吹散らす。ああ、無慙むざんな。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分が飛び出して出さえすれば、周章狼狽しゅうしょうろうばいして、一溜ひとたまりもなく参ってしまうだろうと思っていた勝平は、当が外れた。彼は、相手が思いの外に、強いのでタジ/\となった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
恐らく潜水艦の砲力が及ばない遠方から、はるかに優勢な駆逐艦の十サンチ砲弾が、潜水艦上に雪合戦のようにげかけられることでしょう。そうなれば一溜ひとたまりもありません。
太平洋雷撃戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
火口近かこうちかくにゐてこの波動はどう直面ちよくめんしたものは、空氣くうきおほきなつちもつなぐられたことになるので、巨大きよだい樹木じゆもく見事みごとれ、あるひこぎにされて遠方えんぽうはこばれる。勿論もちろん家屋かおくなどは一溜ひとたまりもない。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
森と野と水との沈黙によって多年の間鍛え上げられた蘇武のきびしさの前には己の行為に対する唯一の弁明であった今までのわが苦悩のごときは一溜ひとたまりもなく圧倒されるのを感じないわけにいかない。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
前哨ぜんしょうの散兵陣地、尖角せんかく陣地、第二陣地、ほとんど一溜ひとたまりもなく押し崩され、中軍の寺院附近は、それらのすなき将兵や馬のいななきで埋まっていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は大陸文学の誤訳を愛読して新しがっても、問題が美容のことになると一溜ひとたまりもない。鼠の天麩羅の香を嗅がされた狐のように忽ち理性を失ってしまう。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それから一溜ひとたまりもなく裏崩うらくづれして、真昼間まつぴるまやま野原のばらを、一散いつさんに、や、くもかすみ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一溜ひとたまりもなく吹散ふきちらす。あゝ、無慙むざんな。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と部下だから一溜ひとたまりもない。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)