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たに/″\
錦葉の
蓑を
着て、
其の
階、
其の
柱を
攀ぢて、
山々、
谷々の、
姫は、
上﨟は、
美しき
鳥と
成つて、
月宮殿に
遊ぶであらう。
月が
晃々と
窓を
射たので、
戞然と
玉の
函を
開いたやうに、
山々谷々の
錦葉の
錦は、
照々と
輝を
帶びて
颯と
目の
前に
又卷絹を
解擴げた。が、
末は
仄々と
薄く
成り
行く。
支へて、
堅く
食入つて、
微かにも
動かぬので、はツと
思ふと、
谷々、
峰々、
一陣轟!と
渡る
風の
音に
吃驚して、
數千仞の
谷底へ、
眞倒に
落ちたと
思つて、
小屋の
中から
轉がり
出した。
合せ
目を
細目に
開けて、
其處に
立つて、
背後に、
月の
影さへ
屆かぬ、
山又山の
谷々を、
蜘蛛の
圍の
如く
控へた、
星に
屆く
黒き
洞穴の
如き
大なる
暗闇を
翼に
擴げて、
姿は
細き
障子の
立棧。