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こほりぶくろ
氷嚢が
生憎無かつたので、
清は
朝の
通り
金盥に
手拭を
浸けて
持つて
來た。
清が
頭を
冷やしてゐるうち、
宗助は
矢張り
精一杯肩を
抑えてゐた。
お
召物が
濡れますと
言ふを、いゝさ
先させて
見てくれとて
氷嚢の
口を
開いて
水を
搾り
出す
手振りの
無器用さ、
雪や
少しはお
解りか、
兄樣が
頭を
冷して
下さるのですよとて
御米は
何時になく
逆上せて、
耳迄赤くしてゐた。
頭が
熱いかと
聞くと
苦しさうに
熱いと
答へた。
宗助は
大きな
聲を
出して
清に
氷嚢へ
冷たい
水を
入れて
來いと
命じた。
女子どもは
何時しか
枕元をはづして
四邊には
父と
母と
正雄のあるばかり、
今いふ
事は
解るとも
解らぬとも
覺えねども
兄樣兄樣と
小き
聲に
呼べば、
何か
用かと
氷嚢を
片寄せて
傍近く
寄るに
「
清、
御前急いで
通りへ
行つて、
氷嚢を
買つて
醫者を
呼んで
來い。まだ
早いから
起きてるだらう」