駈付かけつ)” の例文
「畜生……到底とても駄目だ。」と、市郎は呟きながら引返ひっかえして来ると、安行も丁度ちょうど駈付かけつけた。トムは咽喉のどを深く抉られて、既に息が絶えていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
れは大変な事と思て、すぐ引返ひきかえしておもての方に居る公用方の吉岡勇平よしおかゆうへいにその次第を告げると、同人も大に驚き、場所に駈付かけつ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かつて或る暴風雨の日ににわかうなぎいたくなって、その頃名代の金杉かなすぎ松金まつきんへ風雨を犯して綱曳つなひ跡押あとおしきのくるま駈付かけつけた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それを引分ひきわけうとて拔劍きましたる途端とたんに、のチッバルトの我武者がむしゃめがけんいて駈付かけつけ、鬪戰たゝかひいどみ、白刃しらは揮𢌞ふりまはし、いたづらに虚空こくうをばりまするほど
それでいろ/\けなくつて、やうやく七ぐわつ十一にち末吉すゑよし駈付かけつけてると、貝殼かひがらやまだけしろのこつて、あゝ因業ゐんがう親分等おやぶんらは、一人ひとりかげせぬのであつた。
お前が血相を変えて駈付かけつけても、また夫人の美しい魅力のために、手もなく丸められてしまうのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それ故にこれは大変だと思い——今までそんな約束ちがいは一度もありませんでしたからな——それで目賀野閣下に御相談をし、こちらへ駈付かけつけましたような訳です。如何です。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
柔道で負傷した知らせの電報で父が馬に乗つて駈付かけつけたのは私が懲罰を受けた前日であるのに、そして別れの時の父の顔はあり/\と眼の前にあるのに、一体この始末は何んとしたことだらう。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
源次郎が飯島にとゞめを刺したようだから、お國は側へ駈付かけつけて
衛兵はそのむねを届け出たので、隊でも驚いた。司令部でも驚いた。当番のS君は真先に現場げんじょうへ出張した。聯隊長その他も駈付かけつけて見ると、M大尉は軍服を着たままで倒れていた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何でも長与を枚い出さなければならぬとうので、桃山ももやまから大阪まで、二、三里の道をどん/″\けて、道頓堀に駈付かけつけて見た所が、うに焼けて仕舞しまい、三芝居あったが三芝居とも焼けて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
七兵衛が駐在所へ駈付かけつける間に、市郎は家中うちじゅうの者を呼集よびあつめて、右の始末を慌しく云い聞かせると、一同は眼をみはっておどろいた。何しろ一刻も早く捜査さがしに出ろと身支度する処へ、塚田巡査も出張しゅっちょうした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)