面皮めんぴ)” の例文
この時到らば教壇に立つ人、面皮めんぴ厚きフィレンツェの女等の、乳房ちぶさと腰をあらはしつゝそとに出るをいましむべし 一〇〇—一〇二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
何と云う! 獣のような図々しさだ。よし、やって来い。やって来るがいゝ。来れば、面と向って、あの男の面皮めんぴを引きいてれるから。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わたしもうじれったくて、腹がたって、いきなりドアをあけて中へはいって先生の面皮めんぴをはがしてやろうかと思いましたわ。
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
これは丁度その適例てきれいだった。堀尾君は今更拝趨はいすう面皮めんぴ無之候これなくそろと書いて恐惶頓首きょうこうとんしゅまことに申訳ない次第だった。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
果せるかなくだんの組はこの勝負にきたなき大敗を取りて、人も無げなる紳士もさすがに鼻白はなしろみ、美き人は顔をあかめて、座にもふべからざるばかりの面皮めんぴかかされたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
面皮めんぴを厚くせよ。「カンニング」を見つけられし中学生の如く、天譴なりなどと信ずることなかれ。
なにもねえ、え、おい、本当に己はおめえのために、何様どんなにか面皮めんぴを欠いたか知れやアしねえ、折角己が親切に世話アしてやった結構なおたなを、お嬢さんゆえにしくじって仕まい
そんなふうに、友人から、面皮めんぴがれて来たことを、モルガンは押しかくして
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
おぞましや面皮めんぴはがれて白覆面の腰本治右衛門、ピクリとまた後へさがりました。
「やよ曹賊そうぞく。汝は、若年の頃から口先で人をだます達人だが、この陳宮がおる以上、わが主君だけはあざむかれんぞ。この寒風に面皮めんぴをさらして、無用の舌の根をうごかさずと、早々退散しろ」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俺は今日は貴様の面皮めんぴを剥ぎに来たんだ。まあいいから坐ってろ。……俺は柿江の面皮を剥ぎに来た、と。……だ、そうでもねえ。俺は皆んなに泣いてもらいに来たんだ。石岡、貴様はだめだ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
はばなんぢいた面皮めんぴかむが、忠義ちうぎのほどはわれれり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は面皮めんぴがれた偽善者のようにすくんでしまった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
羊の皮をかぶって来たおおかみ面皮めんぴを、真正面から、引きいだのであるから、その次ぎの問題は、狼が本性を現して、飛びかゝって来る鋭い歯牙しがを、どんなに防ぎ、どんなに避くるかにあった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
おめえにとっては、ここまでがこの世の定命じょうみょう。また、おれたちには出世の門だ。——林冲を殺して面皮めんぴ金印きんいん(刺青)をはぎ取って帰れば、生涯安楽にしてやるとはこう大将軍家のおさしがね。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども面皮めんぴの厚くなつた今はさほど卑下ひげする気もちにもなれない。——
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「明後日会ったら面皮めんぴを剥いでやる」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いわゆる悪女の深情ふかなさけと称するのであろうと、かなり面皮めんぴの厚い孫兵衛も、ふたりの手前、処女みたいに赤くなったが、「う……なに、今少々、せぬ女について、問いただしているところなんだ」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)