雨垂あまだれ)” の例文
障子も普通なみよりは幅が広く、見上げるような天井に、血の足痕あしあともさて着いてはおらぬが、雨垂あまだれつたわったら墨汁インキが降りそうな古びよう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし見上げたる余の瞳にはまだ何物も映らぬ。しばらくは軒をめぐ雨垂あまだれの音のみが聞える。三味線はいつのにかやんでいた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
竹トンボのように狂ってクルクル廻って、右の上の桟敷に張りめぐらした幔幕まんまくの上へポーンと当って、雨垂あまだれのように下へ落ちてしまいました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「雨だれ伝ふやれ簾」は所詮蜂の巣の斬新なるにかぬ。ただ去年のままの破簾に雨垂あまだれしずくが伝う趣は、やはり俳人の擅場せんじょうともいうべき天地である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
卯平うへいはすや/\と呼吸こきふ恢復くわいふくしたまゝくちかない。ぴしや/\と飛沫しぶきどろりつゝ粟幹あはがらのきからもゆきけてしたゝいきほひのいゝ雨垂あまだれまないでよるつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今年十歳とをになるお信は隱れん坊のことなんか忘れてしまつたやうに、納屋の前の、母屋に續いた粗末な渡り廊下に立つて、隣の子の常吉と、雨垂あまだれの落ちるのを、面白さうに眺めて居ります。
が、雨垂あまだれとも、血を吸膨れた蚊が一ツ倒れた音とも、まだ聞定めないでうつつでいると、またぽたり……やがて、ぽたぽたと落ちたるが、今度はたしかに頬にかかった。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
りやどうするんだい」といた。被害者ひがいしや先刻さつきから雨垂あまだれみづつちくぼんだあたりをたが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
雨垂あまだれに枕を叩かせて、うとうとと寝入る兵馬。昨夜もあの騒ぎでおちおち眠れない。このごろ中よく眠れない。今宵こそは、ともかくも一夜の熟睡をむさぼって、明日はこの寺を立つのだ。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
黙って聞いていると、雨垂あまだれの音もしないようだから、ことによると、雨はもうんだのかも知れない。しかしこの暗さでは、やっぱり降ってると云う方が当るだろう。窓はもとより締め切ってある。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どうも、剥身屋の荷をかばうと、その唐桟の袖が雨垂あまだれに濡れる。私は外套で入交いれかわって、からかさをたたんだ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五月雨さみだれのしと/\とする時分じぶん家内かないあさあひだ掃除さうぢをするときえんのあかりでくと、たゝみのへりを横縱よこたてにすツと一列いちれつならんで、ちひさい雨垂あまだれあしえたやうなもののむらがたのを
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雨垂あまだれに笠もかぶらないで、一山ずつ十銭の附木札にして、わめいている。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)