雇人やとひにん)” の例文
平山はきのふあけ七つどきに、小者こもの多助たすけ雇人やとひにん弥助やすけを連れて大阪を立つた。そしてのち十二日目の二月二十九日に、江戸の矢部がやしきに着いた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
雇人やとひにん達も手の付けやうのない有樣ですが、商賣の方は、長い經驗を持つた番頭の徳三郎が取仕切つて、何の不自由もなく續けて居ります。
一日を子供の世話と雇人やとひにん等の指揮さしづとに疲れ切つて、夕暮のゴタ/\した勝手元で、大きな戸棚の中へ首を突ツ込んで
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
うち新聞記者しんぶんきしやる、出迎人でむかへにんる。汽船会社きせんぐわいしや雇人やとひにんる。甲板かんぱん上中下じやうちうげともぎツしりひとうづまつてしまつた。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
富裕な權高けんだかな家族の人々に、たゞいやしい雇人やとひにんとしか扱はれないやうな、また彼等の裡にある生得の長所を知りもしなければ見出しもせず、彼等の習ひ覺えた才能を
欄干てすりの所へつて見ますと、本宅おもやの煙突はひる近くなつてます/\濃い煙を吐くやうになり、窓の隙間から男女なんによ雇人やとひにんの烈しく働いて居る姿の見えるにつけて、私は我儘者
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しなやみなかえた。さうしてとなり戸口とぐちあらはれた。となり雇人やとひにんなべのなはつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『オヽ、濱島はまじまさん⁈ よくぞんじてをりますよ、雇人やとひにんが一千にんもあつて、支店してんかずも十のゆび——ホー、そのたくですか、それはつて、あゝつて。』とくち手眞似てまねまどからくび突出つきだして
さあ自棄やけに成つて、それから毒吐どくつき出して、やあ店番の埃被ほこりかぶりだの、冷飯吃ひやめしくらひの雇人やとひにんがどうだのと、聞いちやゐられないやうな腹の立つ事を言やがるから、這箇こつちも思切つて随分な悪体あくたいいて遣つたわ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
家の中の調度も一と通り、裕福らしくはありませんが、そんなに困つてゐる樣子もなく、雇人やとひにんは下男一人、婆やが一人。
「いゝえ、その立場からでなく、あなたが忘れてゐらしたそして雇人やとひにんがその下にゐて、氣持がいゝかどうかと心配してゐらしたその立場からでしたら、私、心から賛成いたします。」
煙草たばこの好きな叔母が煙管きせるを離さずに、雇人やとひにん指揮さしづしていそがしい店を切盛きりもりしてゐるさまも見えるやうで、其の忙がしい中で、をひの好きな蒲鉾かまぼこなぞを取り寄せてゐることも想像されないではなかつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「ありますよ。雇人やとひにんが入るんで、毎晩立ちますが、私は疳性かんしやうで、流しの廣い、上り湯のフンダンにある錢湯でないと、入つたやうな氣がしません」
そしてお前は時たまの贔屓ひいきしるしを嬉しく思つて受けてゐる——立派な家柄の紳士で世間に通じた人が、雇人やとひにん、而も新參者しんざんものに向つて示す眞僞も分らぬしるしを。よくもそんなことが出來たものだ。
「始めてお目にかゝります。私は金座の役人石井平四郎の雇人やとひにん、霜と申します。御坊ちやまの乳母をいたして居りました。これはお附の小間使春で御座います」
表向は殺されたお町の代り、病人の世話をするといふ名儀ですが、實は、おぬひや世之次郎をはじめ、雇人やとひにん全部を見張る爲、お品の骨折も一通りではありません。
老主人夫婦の他には、雇人やとひにんばかりですが、その雇人達が、たゞ一と粒種の三河屋の希望をうしなつた悲みに浸り切つて、暫らく平次と八五郎に取り合ふ者もない有樣です。
お國は片つ端から雇人やとひにんを數へ上げましたが、石原の利助の興味をひいたのは、お吉一人だけ。
丈太郎はんな事までヅケヅケと言ふのです。普通の雇人やとひにんとしては、考へられないほどの打ちあけ話ですが、その言葉の底には、何にか知ら一種のふくみがあるのかも知れません。
日頃雇人やとひにんの少ない家ですが、それにしても、こんなことはない筈です。
この金右衞門をうらむ者は、江戸中に何百何千人あるかわかりませんが、用心深い上に、元は武家だつた金右衞門は相當以上に武藝の心得があり、その上雇人やとひにんの喜三郎といふ若くて達者なのが居るので