闊歩かっぽ)” の例文
今は何分にもまだその便宜がなく、たとえば支那南海を黒潮に乗ってという類の大胆な一説が、誰にも笑われずに闊歩かっぽする時代なのだから
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そうして二人とも美しい顔をゆがめてチューインガムをニチャニチャ噛みながら白昼の都大路を闊歩かっぽしているのであった。
チューインガム (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かくの如く脆弱ぜいじゃくにして清楚せいそなる家屋と此の如く湿気に満ち変化に富める気候のうち棲息せいそくすれば、かつて広大堅固なる西洋の居室に直立闊歩かっぽしたりし時とは
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それからコケットリー、これは昔は男女ともに言ったが、今は専ら女のめかし歩くを指し、もと雄鶏が雌鶏にほれられたさに威張って闊歩かっぽするに基づく。
財産と生命が安固にして夜は戸を閉じなくとも高枕で眠り、他人と説を異にしていても大手を振って往来を闊歩かっぽする如きことこそ真の自由というものである。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
甚だ飄逸ひょういつ自在、横行闊歩かっぽを極めるもので、あまりにも専門化しすぎるために、かなり難解な文学に好意を寄せられる向きにも、往々おうおう、誤解を招くものである。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
いわゆる呉越同舟ごえつどうしゅうというやつで、ドイツ人やイタリヤ人が闊歩かっぽしているその向うから、イギリス人やアメリカ人や、それからソ連人までが、安心し切った顔で
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
両肩をそびやかして、さっさと、逃げ隠れもわるびれもせずに、こちらへ向って闊歩かっぽして来るのであります。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
和製クララ・ボーが銀座の歩道を闊歩かっぽする時代だ。夜の十時、新宿の駅に行って見るがいい。
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
仙台においても、女学生たちは、読んでいるのかどうだかわからぬが、詩集やら小説本やらを得意そうにかかえて闊歩かっぽし、星菫せいきん派とかいうのであろう、たいてい眼鏡をかけて
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この人たちはただに酒家妓楼ぎろう出入いでいりするのみではなく、常に無頼ぶらいの徒と会して袁耽えんたんの技を闘わした。良三の如きは頭を一つべっついにしてどてらを街上かいじょう闊歩かっぽしたことがあるそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
富を軽蔑けいべつし、乞う者には与え、白人文明を以て一の大なる偏見と見做みなし、教育なき・ちからあふるる人々と共に闊歩かっぽし、明るい風と光との中で、労働に汗ばんだ皮膚の下に血液の循環を快く感じ
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
……口とあごの形は著しくやさしい。彼の歩き方はなげやりで不揃いだが、ハンスのほうは、黒い靴下にくるまったすんなりした脚で、いかにも軽快に、きちんと拍子を取って闊歩かっぽしてゆく……
ジロリと傲岸ごうがんな横ざまの一瞥いちべつをくれながら出て行ったが、日本人タチバナ氏の方も別段将来英国大使館と御懇意に願おうとは思わなかったから、反っくり返って絨緞磨きの靴で闊歩かっぽしながら
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
福澤等はず役人のような者ではあるが、大名の家来、所謂いわゆる陪臣ばいしんの身分であるから、一行中の一番下席かせき惣人数そうにんず凡そ四十人足らず、いずれも日本服に大小をよこたえて巴里パリ竜動ロンドン闊歩かっぽしたも可笑おかしい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
偉丈夫は、闊歩かっぽした。劉備は並行してゆくのに骨が折れた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまはもっぱら米兵アベックの闊歩かっぽ場と化している。
恋情にせる思いをしたということもない。希望と若さにあふれ、怖れや妥協にまみれることもすくな闊歩かっぽしていたではないか。ただ葛巻の正論には最も参った。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
忠君愛国を無暗むやみに振り廻わして、天下を闊歩かっぽしている不真面目な人よりは、むしろ退いて一身を守っている人の方が、いざという時に天下国家のためになりはせぬか。
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それからまた県土木技師の設計監督によるモダーン県道を徳川時代の人々が闊歩かっぽしたり、ナマコ板を張ったへいの前で真剣試合が行なわれたりするのも考えものであるが
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「この壺は博士のベッドだったんです。その整理形体に最も適したベッドだったんです。ところで、こんな身体で、どうして博士は往来を闊歩かっぽされたか。いまその手足をごらんに入れましょう」
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たまたま犬の一枚革いちまいがわを背に引かけて車をき、或いは越後えちごからくる薬売の娘のごとく、腰裳こしもを高くかかげて都大路みやこおおじ闊歩かっぽする者があっても、是を前後左右から打眺めて、讃歎する者の無いかぎりは
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
得体えたいの知れぬ鬼影おにかげを映しだす怪物、また或るときは、変な衣裳いしょうを着て闊歩かっぽする怪物、その怪物を、うまく隧道トンネルの中にじこめたつもりであった警官隊でありましたが、隧道の上に、なんとしたことか
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)