門扉もんぴ)” の例文
ののしる者もあったが、それでも、万一の騒擾そうじょうを怖れてか、門扉もんぴは、固く閉じたまま、開きもしなければ、答えもしないのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その煉瓦塀は、所々煉瓦がくずれていた上に、昔門扉もんぴがあったと覚しき個所が、大きく、何かの口の様に開いて、その内部は、一面に足をうずめるくさむらであった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
透き通る様な青い若葉が門扉もんぴの上から雨後の新滝のやうに流れ降り、その萌黄もえぎいろから出る石竹せきちく色の蔓尖つるさきの茎や芽は、われ勝ちに門扉の板の空所をひ取らうとする。
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
鉄の門扉もんぴ鉄柵てっさくがめぐらしてあり、どんな身分かと思うような構えだったが、大場その人はでっぷりふとった、切れの長めな目つきの感じの悪い、あまりお品のよくない五十年輩の男で
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その他パリーの二十の街区やマレーやサント・ジュヌヴィエーヴの山などに、無数の防寨ができた。メニルモンタン街にあった防寨には、肱金ひじがねからもぎ取られた大きな門扉もんぴが見えていた。
夜の九時過ぎに梶は友人と一緒に門扉もんぴのボタンを押して女中に中へ案内された。中庭は狭くペンキのにおいがすぐ登る階段の白い両側からつづいて来た。階上の二十畳もあろうと思える客室の床は石だ。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
残務に当っている一部の者は、極端な劇務げきむわれ、閑役かんやくの者は、門扉もんぴを閉めきって、主君のに服しているほか、なす事もなかった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屋敷を取りかこんだ高いコンクリートべいには、ドキドキと鋭いガラスの破片が、ビッシリと植えつけてあるし、見上げるばかりの御影石みかげいしの門柱には、定紋じょうもんを浮彫りにした鉄板の門扉もんぴ
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
門扉もんぴを開き、大玄関にはりんどうの紋のついた幕をめぐらし、正面に金屏風きんびょうぶをすえ、早朝には、城下の神社三ヵ所へ門人たちが代参して
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
電話で知らせてあったためか、車がとまると、アラベスクのすかし模様の鉄の門扉もんぴが、音もなくいっぱいにひらいた。車はその中へすべりこんでいった。すると、門扉は静かに、ふたたびとざされた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
案内を乞わなくても、塀はあるがいかめしい門扉もんぴなどはない。竹編戸たけあみどがあるばかりだ。風に揺々ゆらゆらとうごいて半ば開いている。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大手大門わきの矢倉にいた高畠石見いわみと奥村助右衛門のふたりは、あっ、と驚いた様子で、矢倉から飛んで降りた。そして内から門扉もんぴを押し開くと
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで彼はいわれたとおり、門扉もんぴのかんぬきもそのままに、まず何者か? また何の用か? を大音声でたずねていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ややともすれば、些細ささいな町の風聞や、門扉もんぴ出入でいりぐらいを見届けて、せきを切って、どっと動きそうな気振りを見せる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
続いて門扉もんぴを打ち壊す音やら、土塀をこえて躍り入る兵の影やら、邸のうちはたちまち死闘の渦に巻きこまれた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここも、門扉もんぴはかたく、真っ暗で、ただその夜の木枯しばかりが、宵より強く、あたりの樹木をゆすっている。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幕命がくだったのは、おとといだったが、ゆうべの夜半までは、高氏、直義ただよしをかこむ評議に過ぎ、かたく門扉もんぴをしめたまま、なんのうごきもしていない足利家だった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内よりおごそかな声があって、門扉もんぴは八文字もんじにひらかれた。——と、ほとんど同時である。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、何もかも、泡沫ほうまつに帰したように、しばらく、茫然と、いかめしい門扉もんぴながめていた。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、そこの門扉もんぴへ、一せんを射て引っ返した、などという一場いちじょうの勇壮なる話もある。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらにはまた、祝朝奉家の本拠、独龍岡の山館やまだちの前へも、何らさえぎるものなく来てしまった。——見ればほりり橋を高く上げ、門扉もんぴかたくとざして、山城一帯はせきとして声もない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、寄手の伊藤彦次郎父子は、功名にかられて、門扉もんぴの下から内へ、むりに這い込もうと足掻あがいていたところを、寄りたかッて来た邸内の武者のため、たちまちなます斬りにされてしまった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にもかかわらず、その豪奢を見つつ、奉行所の眼も光らなければ、借りたおされた鼈甲屋呉服屋があるということも聞かず、ましてや、由縁ゆかりもない町人風情が門扉もんぴのうちを知るよしもなかった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこでも飛脚組の戸を叩いたように、九兵衛が頻りと門扉もんぴをたたいて呼びましたが、もう時刻は夜半よなか、それに、門と母屋の隔たりがあるので、最前の如くおいそれと、なかで答えはありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして樊城まで、一散に逃げてくると、城の門扉もんぴを八文字に開いて
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門扉もんぴを開いて待っていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)