金剛杖こんごうづえ)” の例文
山伏の形は、腹這はらばさまに、金剛杖こんごうづえかいにして、横に霧をぐ如く、西へふは/\、くるりと廻つて、ふは/\と漂ひ去る。……
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そしてよろいかぶとおいの中にかくして、背中せなか背負せおって、片手かたて金剛杖こんごうづえをつき、片手かたて珠数じゅずをもって、脚絆きゃはんの上に草鞋わらじをはき
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
脚絆きゃはん足袋たび草鞋わらじ菅笠すげがさは背中に、武士ではないがマンザラ町人でもない——手に四尺五寸ほどあるかしで出来た金剛杖こんごうづえまがいのものをついていました。
また彼は勇気をふるい起こし、道を縦横に踏んで、峠の上で見つけて来た金剛杖こんごうづえを力に谷深く進んで行った。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一時間たつかたたぬに、もう大晦日おおみそかという冬の夜ふけの停車場、金剛杖こんごうづえ草鞋わらじばきの私たちを、登山客よと認めて、学生生活をすましたばかりの青年紳士が、M君に何かと話しかける。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
シナの仙人せんにんの持っていた杖は道術にも使われたであろうが、山歩きに必要な金剛杖こんごうづえの役にも立ったであろう。羊飼いは子供でも長い杖を持っているが、あれはなんの用にたつものか自分は知らない。
ステッキ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と、いうとともに、胆略も武勇もない、判官ほうがんならぬ足弱の下強力したごうりきの、ただその金剛杖こんごうづえの一棒をくらったごとく、ぐたりとなって、畳にのめった。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身に白衣びゃくえを着て、手には金剛杖こんごうづえをついている。この大竹藪の夜は、幸いにして見通す限り両側に燈籠とうろうがついている。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼が帰って行く山道の行く先には、手にする金剛杖こんごうづえもめずらしそうな人々の腰に着けた鈴の音が起こった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それに、貴下あなた打棄うっちゃっておいでなすったと聞きました、その金剛杖こんごうづえまで、一揃ひとそろい、驚いたものの目には、何か面当つらあてらしく飾りつけたもののように置いてある。……」
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅のかさ金剛杖こんごうづえ、白い着物に白い風呂敷包みが、その薄暗い空気の中で半蔵の目の前に動いた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
金剛杖こんごうづえちょう脇挟わきばさんだ、片手に、帯の結目むすびめをみしと取つて、黒紋着くろもんつきはかま武士さむらい俯向うつむけに引提ひきさげた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
武士さむらい這奴しゃつの帯の結目ゆいめつかんで引釣ひきつると、ひとしく、金剛杖こんごうづえ持添もちそへた鎧櫃よろいびつは、とてもの事に、たぬきが出て、棺桶かんおけを下げると言ふ、古槐ふるえんじゅの天辺へ掛け置いて、大井おおい、天竜、琵琶湖びわこも、瀬多せた
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
金剛杖こんごうづえを棄置いて、腰のすわらぬ高足をどうと踏んで、躍上おどりあがるようにその前を通った、が、可笑おかしい事には、対方さき女性にょしょうじゃに因って、いつの間にか、自分ともなく、名告なのり慇懃いんぎんになりましてな。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)