遠州えんしゅう)” の例文
その秋生国しょうごく遠州えんしゅう浜松在に隠遁いんとんして、半士半農の生活を送ることとなったが、その翌年の正月になって主家しゅか改易かいえきになってしまった。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
家康は次ぎのへ声をかけた。遠州えんしゅう横須賀よこすか徒士かちのものだった塙団右衛門直之はいつか天下に名を知られた物師ものしの一人に数えられていた。
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
箱根山はこねやまを西へ越えると、今はまだ一つだけ、遠州えんしゅう島田の大祭に、鹿島踊が出たという話を聴くのみで、それも詳しいことは知っておらぬが
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
例えば、桂離宮を遠州えんしゅうこしらえたとか、それから聚楽園も遠州が拵えた、二条城の内に武家好みの石をいっぱい立てて、形変りの庭を遠州が拵えた。
書道と茶道 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
とはいえ用捨ようしゃなく生活ここうしろは詰るばかりである。それを助けるためにお供の連中は遠州えんしゅう御前崎おまえざき塩田えんでんをつくれとなった。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
松下嘉兵衛まつしたかへえは、遠州えんしゅうの産で、根からの地侍じざむらいであったが、今川家からほうを受けているので、駿河旗本するがはたもとの一人であり、ろく三千貫、頭陀山ずだやまとりでを預かっている。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は紹鴎じょうおうとか利休りきゅうとかを指して云うのです。ややおくれては光悦の如き例外を多少は挙げ得るでしょう。中期以後、特に遠州えんしゅうあたりから茶道は下落する一方です。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「僕は静岡県、河原君と同県ですが少し西へ寄って、遠州えんしゅうであります。遠州人は上州人よりも強い」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それでは申上げます、が、御存じの通り小堀家は御先祖遠江守政一とおとうみのかみまさかず様以来茶道の御家柄で、東照公様御封の遠州えんしゅう流奥伝の秘書と、江州小室一万二千石永代安堵えいたいあんどの御墨付を
なにね深川の方の知己ちきの処に蟄息して居たが、遠州えんしゅうの親族の者が立帰って来て、何か商法を始めようと思うのだ、それに就いて蠣売町かきがらちょううちが有るから、その家を宿賃でかりつもり
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
試みに西川一草亭にしかわいっそうてい一門の生けた花を見れば、いかに草と木と、花と花と、花と花器とのモンタージュの洗練されうるかを知ることができる。文人風や遠州えんしゅうごのみの床飾りもやはりそうである。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
またある時は二つの船は互いに遠く乗り放し矢合わせをして戦った。闇の夜にはかがりき、星明りには呼子よびこを吹き、月の晩には白浪しらなみを揚げ、天竜の流れ遠州えんしゅうなだを血にまみれながらただよった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
遠州えんしゅう御前崎おまえざき西林院せいりんいんと云う寺があった。住職はいたって慈悲深い男であったが、ある風波の激しい日、難船でもありはしないかと思って外へ出てみた。
義猫の塚 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
高取は遠州えんしゅう七窯の一つとして名が高い。その名の半以上は遠州に負うているといってもいい。もし茶器を作らなかったら、早く名を失い窯を失っていたかもしれぬ。
北九州の窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その頃、遠州えんしゅう秋葉あきばの一修験者しゅげんじゃが、越後に逗留していて、上杉家の家中の者からこのはなしを聞き
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近世の実例としては、遠州えんしゅうの高林という大農の家の年中行事が伝わっている。この研究所の近くでも、世田谷の大場という旧家の年中行事が、後に活版になったのでよく読まれている。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
よく見せねばならないという嫌味がない。よしや、些少はあっても、作意が俗を超えているから実に立派だ。利休りきゅう少庵しょうあん宗旦そうたんにしろ、遠州えんしゅう宗和そうわにしろ、書の神髄に徹しているところがある。
遠州えんしゅうの織物でもう一つ言い添えるべきだと思われるのは、磐田いわた郡の福田ふくでで出来る「刺子織さしこおり」であります。刺子の仕事をおりで行い、分厚な仕事着地として作られます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
遠州えんしゅう井伊谷いいだに微行びこうして、北国五ヵ国をもらう条件の下に、家康と秘密協約をむすんで帰ったことから、以後、前田家との縁談を、故意にすすめながら、裏面では戦備をいそぎ、夜々
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茶道の堕落は遠州えんしゅうあたりから著しくなる。末期に至っては悪趣味の泥中に沈んで済度さいどしがたい。恐らく誤った茶人ほど、工藝に対してひどい見方をしている者は他にないと云ってもよい。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかし、このほうにもすきがなかったので、じゅうぶん図面ずめんをうつしとることもできず、風のごとくげうせたから、さだめし遠州えんしゅうの使者も宿所しゅくしょをはらって、けさは早朝に帰国したのであろう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)