赴任ふにん)” の例文
はじめてみさき赴任ふにんしたときでも、もう明日にも人手に渡りそうなうわさだったその家は、くら白壁しらかべが北側だけごっそりはげていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「なに、その娘の性格が、先天的にみだらにできていたんじゃ。とつぐとすぐ、良人おっと赴任ふにん先で、書生と密通するというように」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
終りに臨んで君が延岡に赴任ふにんされたら、その地の淑女しゅくじょにして、君子の好逑こうきゅうとなるべき資格あるものをえらんで一日いちじつも早く円満なる家庭をかたち作って
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一八六六年モスコーの音楽学校が開かれると共に、二十六歳のチャイコフスキーは、和声学の教師として赴任ふにんした。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
かれは栃木県のもので、久しく宇都宮に教鞭きょうべんをとっていたが、一昨年埼玉県に来るようになって、ちょっと浦和にいて、それからここに赴任ふにんしたという。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
田口益人たぐちのますひとが和銅元年上野国司かみつけぬのくにのつかさとなって赴任ふにんの途上駿河するが浄見きよみ埼を通って来た時の歌である。国司はかみすけじょうさかんともに通じていうが、ここは国守である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その翌日、雨はあがつてゐたが、梅雨時つゆどきのやうな薄昏うすぐらい朝であつた。富岡は営林署へ行き、赴任ふにんの挨拶をした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
そののち二月ふたつきとたたないうちに、突然官命を受けた夫は支那しな漢口ハンカオの領事館へ赴任ふにんすることになるのです。
或恋愛小説 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
河南かなんの方に城のほりの神が欠けている。その方がこの職に適任であるから、赴任ふにんするがいい。」
考城隍 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
先輩は私に勧誘の手ほどきをしてくれた翌日、同系統の荒川の新店に予備として赴任ふにんして行った。私はすぐ人に頼る性質なので、この人がいなくなった当座は心細い思いをした。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
折から彼等の腹心の中臣習宣阿曾麻呂すげのあそまろが太宰府の主神かんづかさとなって九州へ赴任ふにんすることになった。主神は太宰府管内の諸祭祀をつかさどる長官で、宇佐八幡一社のカンヌシの如き小役ではなかった。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
北海道というような処に赴任ふにんさせられたのが不満であるらしく、ややともすると肝心な授業を捨てておいて、旧藩主の奥御殿に起ったという怪談めいた話などをして、学生を笑わせている人だった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
昨晩やっと及第きゅうだいいたしましてこちらに赴任ふにんいたしました。
岬へ赴任ふにんときまったとき、はたと当惑とうわくしたのはそれだった。途中とちゅうまであったバスさえも、戦争中になくなったまま、いまだに開通していない。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
そしてまた彼が赴任ふにんしたのも日が浅い。殊に、小田原の北条というものは到底ふだんでも安心していられる存在ではない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦争中、私が、トンキンの首都河内ハノイ赴任ふにんしてゐる時に、フウトウといふ、小さな町に呼ばれて行つた事があつた。と、思ひ出のやうな事から、書き始めた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
中学の教師堀田某ほったぼうと、近頃ちかごろ東京から赴任ふにんした生意気なる某とが、順良なる生徒を使嗾しそうしてこの騒動そうどう喚起かんきせるのみならず、両人は現場にあって生徒を指揮したる上
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところがその中に私はある官辺の用向きで、しばらく韓国かんこく京城けいじょう赴任ふにんする事になりました。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
昭和三年四月四日、農山漁村のうさんぎょそんの名が全部あてはまるような、瀬戸内海せとないかいべりの一寒村へ、若い女の先生が赴任ふにんしてきた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
当然自分は、分家して、他藩の指南番か何かに抱えられて、その大名の国元へ赴任ふにんして行く——
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一年の後私はとうとう田舎いなかの中学へ赴任ふにんしました。それは伊予いよの松山にある中学校です。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
引き受けた以上は赴任ふにんせねばならぬ。この三年間は四畳半に蟄居ちっきょして小言はただの一度も聞いた事がない。喧嘩もせずに済んだ。おれの生涯のうちでは比較的ひかくてき呑気のんきな時節であった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
始めて赴任ふにんしたのは越後えちごのどこかであった。越後は石油の名所である。学校のる町を四五町隔てて大きな石油会社があった。学校のある町の繁栄は三二以上この会社の御蔭おかげで維持されている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「御暇乞? 田舎いなかの中学へでも赴任ふにんするんですか」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)