討手うって)” の例文
当時犬山城の石川備前は木曾へ討手うってを差し向けたが、木曾の郷士らが皆徳川方の味方をすると聞いて、激しくも戦わないで引き退いた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
晩にお前が帰らないと、きっと討手うってがかかります。お前がいくら急いでも、あたり前に逃げて行っては、追いつかれるにきまっています。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
高見権右衛門が討手うっての総勢を率いて引き上げて来て、松野右京のやしきの書院の庭で主君の光尚みつひさえっして討手の状況を言上ごんじょうする一段のところで
そして勝家は、ちかごろひんぴんと領海をあらす海賊かいぞく討手うってを向けたが、すでに、紅帆呉服船こうはんごふくぶね行方ゆくえはまったく知れなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「無事に納まりはしますまい——たとえ木曽家の家来とは云っても甚五衛門は大器量人、おやかた討手うってを引き受けて一合戦ひとかっせんせずば置きますまい」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
討手うってのうち明らかにわかっているのは、渡辺金兵衛(小人頭こびとがしら)渡辺七兵衛(同)そして小人の万右衛門の三人であった。
群がる天兵を打倒しぎ倒し、三十六員の雷将をひきいた討手うっての大将祐聖真君ゆうせいしんくんを相手に、霊霄殿りょうしょうでんの前に戦うこと半日余り。
「早速たつくちの評定所へいらっしゃいませ、御老中にこの旨を申上げて、夜の明けぬ間に討手うってを差向けられるよう——」
藤堂の討手うってで藤井新八郎というのがこの大将分で、兵馬はその手に加わって、今この山奥深くたずね入りきたったのは
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
討手うって追撃ついげきを受けて宮は自害し給い、神器のうち宝剣ほうけんと鏡とは取り返されたが、神璽しんじのみは南朝方の手に残ったので、楠氏越智おち氏の一族さらに宮の御子みこ二方ふたかたほうじて義兵を挙げ、伊勢いせから紀井きい
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
みなとを出て西に向かった水戸浪士は、石神村いしがみむらを通過して、久慈郡大子村くじごおりだいごむらをさして進んだが、討手うっての軍勢もそれをささえることはできなかった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
敵に知られての討手うってなるぞ! ……やわか敵も逃がすまじ! 我らも敵には従いがたし! ……末代までの語り草に、斬って斬って斬りまくり
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
きっと貴公へ討手うってのかからぬよう引きうける。貴公は、夜陰やいんにまぎれて、ここを逃げ落ちてください。——それがしの身にかまわず、どうぞ安心して!
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そんな暇はない」と十左は首を振った、「采女どのが小野へ帰ったとわかれば、討手うってを向けられるおそれがある、そうなっては手おくれだ、このまますぐに立とう」
一族討手うってを引き受けて、ともに死ぬるほかはないと、一人の異議を称えるものもなく決した。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
十津川の沿岸を伝うて行けばなんのことはないのですけれども、四藩の討手うってが、残党一人も洩らすまじと、夜となく日となく草の根を分けている際ですから、それはできませんでした。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
京方きょうがた討手うってがこの地方へしのんだとき、どうしても自天王の御座所が分らないので、山また山をさがし求めつつ、一日偶然ぐうぜんこの峡谷へやって来て、ふと渓川たにがわを見ると、川上の方から黄金が流れて来る
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
幕府から回された討手うっての田沼勢は絶えず後ろから追って来るとの報知しらせもある。千余人からの長い行列は前後を警戒しながら伊那の谷に続いた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鬼火の姥と範覚とは、定遍じょうへんの附けた討手うってと共に、そうして戸野の大弥太と共に、十津川へ入り込んで来たのであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
矢倉やぐらへむかった消火隊と、武器をとって討手うってにむかった者が、あらかたである。——で、家康いえやすのまわりには、わずか七、八人の近侍きんじがいるにすぎなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
討手うって手配てくばりが定められた。表門は側者頭そばものがしら竹内数馬長政たけのうちかずまながまさが指揮役をして、それに小頭こがしら添島九兵衛そえじまくへえ、同じく野村庄兵衛しょうべえがしたがっている。数馬は千百五十石で鉄砲組三十ちょうかしらである。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
宝治ほうじ元年の六月、前将軍頼経よりつねを立てようとして事あらわれ、討手うってのために敗られて、一族共に法華堂ほっけどうで自害した三浦若狭守泰村わかさのかみやすむらという人の名なぞも出て来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
懇意な小林鉄之丞から頼まれたのか、自発的に申し出たのか知らぬが、逃亡した八十三郎の討手うってを引き請けて、何でも、近いうちに旅立つという噂もある……
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六波羅の討手うって攻め滅ぼした際に、戦場から遁がれて身をかくしたが、こやつを捕えて訊ねたならば、宮方一味のやからの姓名、人数もわかろうというところから、姥はさがしにかかっておるのさ
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
朱柄あかえやりをもった曲者くせものが、城内の武士ぶしをふたりまで突きころしたという知らせに、さては、敵国の間者かんじゃではないかと、すぐ討手うってにむかってきたのは、酒井黒具足組くろぐそくぐみの人々であった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵事をとどむべきよしの勅諚ちょくじょうも下り、「何がな休戦の機会もあれかし」と待っていた幕府でも紀州公が総督辞任および長防討手うって諸藩兵全部引き揚げの建言を喜び迎えたとの報知しらせすら伝わって来た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)