親娘おやこ)” の例文
その頃、蝶子はまだ二つで、お辰が背負うて、つまり親娘おやこ三人総出で、一晩に百個売れたと種吉は昔話し、喜んで手伝うことを言った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
うるほせしが此方に向ひてコリヤ娘必ず泣な我も泣じ和女そなたそだて此年月よき婿むこ取んと思ふ所へ幸ひなるかなと今度の婚姻無上こよなき親娘おやこが悦びを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
平次はその様子を見定めると、又六の舌の動きをなめらかにするために、治兵衛お糸親娘おやこを、眼で追いやったことは言うまでもありません。
いずれ劣らぬ美しい上品な親娘おやこが、おとなう人も来る人もない淋しい山の中の一軒家で、一体、何をしているのでしょう? そして、形も崩さず
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
それを、親娘おやこと気どられないように、かげにあって守りとおさねばならなかった。おさよの苦心はいかばかりであったろう。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
が、いまとなってみると、魚松の親娘おやこには、気のどくな目に遭わせたことになる。もし、お次が暇を出された理由が、林助のためであるとすれば?
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口紅を買うて帰ってやったとか……やらぬとか……まことに可哀相とも何とも申様もうしようの無い哀れな親娘おやこで御座いましたが
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして片山助役は、翌日から彼の言明通り、あの陰気な十方舎の親娘おやこの身辺に関して、近隣の住人やその他に依る熱心な聞き込み調査を始めたんです。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
グラグラと体が傾ぎ、前のめりにのめったかと思うと、もう親娘おやこは抱き合っていた。しばらくは二人のすすり泣きの声が、しずかな夜の中に震えて聞こえた。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
就中なかんずく琵琶びわ堪能たんのうで、娘に手をひかれながら、宿屋々々に請ぜられて、やすらかに、親娘おやこを過ごすようになった。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの若い紳士は例の親娘おやこと一緒に劇場を出たが、おれは少し離れて、三人のあとから玄関口を抜けた。
道化者 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
あなぐらのような小屋の中で、この不健康な親娘おやこはもはやどうすることもできなくなっていた。一台の荷車を売ったその金が、わずかに二人の生命をつないでいるだけであった。
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
またたく間に白露窮民の無料宿泊所と化したのであるが、一時は堂に溢れた亡命者エミグラント達も、やがて日本を一人去り二人去りして、現在いまでは堂守のラザレフ親娘おやこ聖像アイコンを残すのみになってしまった。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
三百八十両を取り返したのは、彦兵衛お富の親娘おやこの手柄と判って、徳之助の家督相続にも、お富との祝言にも、今は文句を言う人もありません。
一日、二日とする内に——彼等は全く二人きりの寂しい親娘おやこであって、生計くらしは豊かでなく近所の交際つきあいもよくない事。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「おのおの方、とうとう親娘おやこの旅の者が引っかかりましたぞ。しかも、美しい母と、あどけない女の子で。これでわれわれの大任もおりたというもの」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この問題に限ってチョットつっつくと直ぐに止め度もなくペラペラと喋舌しゃべり出しやがるんだ。どう見ても普通の親娘おやこじゃありません……と熱烈に主張するんだ
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
夕餉ゆうげ一刻ひとときには、親娘おやこして、そっと、土器かわらけで杯が酌みかわされ、桔梗の母なるおうなは、瞼をぬぐい通していた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
通りを一つ過ぎたと思うとすぐに、簡素な正面ファサアドを持った、ある大きな家の前に立ち止った。と、じきに親娘おやこは、心をこめて、その連れに別れを告げたのち、姿を消してしまった。
道化者 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
今ぞ親娘おやこが一生の別れ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あとに残ったおさよおつや親娘おやこの身の振り方については、鍛冶富ともよく談合したうえ、おさよ婆さんのほうは
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御主人としのぶさんは、決して仲の良い親娘おやこぢやないけれど、お道坊が飛び込んで來たのも無理はありません。
ゆうべポッキリと、えん老爺おやじが亡くなりましてね。……酒のみで、歌謡狂うたきちがいといわれた道楽者じゃござんしたが、あれでも親娘おやこ三人ぐらしのかせだったんでございますよ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どこに在ってもいいじゃないの……とにかく貴方は今度だけ御客様よ。招待券の二三枚ぐらい上げてもいいわ……ホホ……神戸の後家さん親娘おやこでも引っぱってらっしゃい」
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もっとも、梶親娘おやこが向柳原に引っ越して来たのは、ツイこの春で逢う機会がなかったせいもあるでしょう。
そういう時こそ、親娘おやこが秘密なささやきをするのではないかと、気を廻してのび上がッた途端に、床板から出ている錆釘さびくぎの先へ、コツンと頭をぶつけたのは、痛いともいえぬ災難でした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親娘おやこ三人づれで上方の旅へ出かけるとき、ほんの赤児あかごでごぜえましたから、いま成人していらっしゃれば、顔を見てもわかるわけはねえのですが、なに、あの古石場にいなすった娘さんなら
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「さようで……あの斬られたお熊さんと十五違いぐらいで御座いましょうか……いつもお二人で仲よく当寺こちらへお参りになりましたもので、他目よそめには実の親娘おやことしか見えませぬくらい仲が宜しゅう御座いましたが……南無南無南無……」
越前屋へ着くと、親類方がみんな集まって、勝造親娘おやこ、菊之助夫婦、徳三郎などと一緒に、仏壇から取出した瓶を睨んで平次の来るのを待っているところでした。
ご大切な宝物ほうもつとやらを、父とわたくしとで、おあずかりもうしておりましたが、そのために、親娘おやこの者が、ひとかたならぬ難儀なんぎをいたしておりますゆえ、きょう、お通りあそばしたのをさいわ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「与力笹野新三郎、上様の御姿を拝借して、そのほう親娘おやこの企みを見破りに参ったのだ。神妙にしろ」
酒楼さかばあるきの歌唄いの親娘おやこなんでございますがね」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「與力笹野新三郎、上樣の御座を拜借して、其方親娘おやこたくらみを見破りに參つたのだ。神妙にしろ」
ねらはれてゐるのはその娘ぢやありません、蝦蟇の方で、——尤もあの綺麗な娘は養ひ娘なんだ相で、本當の親娘おやこがあんなに相好が違つちや、神樣の惡戯が過ぎまさア」
案じて、一生親娘おやこの名乗をしない約束か何かで、金をつけて閑斎にやったに違いあるまい
が、勝造さん親娘おやこと、菊之助さん夫婦は、何をたくらむか、解つたものぢや御座いません。
が、勝造さん親娘おやこと、菊之助さん夫婦は、何を企むか、解ったものじゃございません。
それから一と月、江戸は青葉の風かをる頃となりました。三百八十兩を取り返したのは、彦兵衞お富の親娘おやこの手柄と判つて、徳之助の家督相續にも、お富との祝言にも、今は文句を言ふ人もありません。
「それぢや、あの梶原親娘おやこが——」
「山脇玄内親娘おやこですよ」