藻脱もぬけ)” の例文
おゝ、あはれ、ささやかにつつましい寐姿は、藻脱もぬけの殻か、山に夢がさまよふなら、衝戻つきもどす鐘も聞えよ、と念じあやぶむ程こそありけれ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
文学者ぶんがくしやを以てだいのンきなりだい気楽きらくなりだい阿呆あはうなりといふ事の当否たうひかくばかりパチクリさしてこゝろ藻脱もぬけからとなれる木乃伊ミイラ文学者ぶんがくしやに是れ人間にんげん精粋きつすゐにあらずや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
と部屋の戸を曳開ひきあくれば、銀平のうしろに続きて、女房も入って見れば、こはいかに下枝の寝床は藻脱もぬけの殻、ぬしの姿は無かりけり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それあつければうめ、ぬるければたけきやくまつ揚場あがりばに、奧方おくがたはおさだまりの廂髮ひさしがみ大島おほしままがひのお羽織はおりで、旦那だんな藻脱もぬけかごそばに、小兒こども衣服きものあかうらを、ひざひるがへしてひかへてる。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
寒さは寒し恐しさにがた/\ぶるひ少しもまず、つひ東雲しのゝめまで立竦たちすくみつ、四辺あたりのしらむに心を安んじ、圧へたる戸を引開くれば、臥戸ふしどには藻脱もぬけの殻のみ残りて我も婦人も見えざりけり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
耳朶みゝたぶにぶんと響き、脳にぐわら/\とわたれば、まなこくらみ、こゝろえ、気もそらになり足ただよひ、魂ふら/\と抜出でて藻脱もぬけとなりし五尺のからの縁側まで逃げたるは、一秒を経ざる瞬間なりき。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのうしろなるふすまの絵の、富士の遠望とおみに影をとどめて、藻脱もぬけの主は雪のはだ
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)