藪鶯やぶうぐいす)” の例文
路地の内ながらささやかな潜門くぐりもんがあり、小庭があり、手水鉢ちょうずばちのほとりには思いがけない椿の古木があって四十雀しじゅうから藪鶯やぶうぐいすが来る。
花火 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
動物を飼っても知れるでないか。野放しの犬と教育した犬とはいずれが上等であるか。藪鶯やぶうぐいすと飼った鶯とはいずれが妙音を発するだろうか。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
清麗な老嬢は、その時、石をぶつけられた藪鶯やぶうぐいすのように吃驚びっくりした声をして、幇間たいこもちの桜川をいて灸点師きゅうてんしの前へ走っていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
井戸から東へ二間ほどの外は竹藪たけやぶで、形ばかりの四つ目垣がめぐらしてある。藪には今藪鶯やぶうぐいすがささやかな声に鳴いてる。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
裕佐がそのあとに続いた時、その草むらの中からは藪鶯やぶうぐいすがチチ、キキ、とないて飛び散った。崖の上は桑畑であった。
「根岸の梅屋敷——龜戸梅屋敷と違つて、此處は御隱殿裏で、宮家住居の近くだから、藪鶯やぶうぐいすだつて三下さんさがりぢや啼かねえ。しやう篳篥しちりきに合せてホウホケキヨ——」
四十雀しじゅうからでも藪鶯やぶうぐいすでも、来たかと思うとすぐに行ってしまって、遊んでいようとする心持が少しもない。
人気ひとけのない時は、藪鶯やぶうぐいすが木の間を飛んでいたりして今まで自然の移りかわりなどに関心を持とうともしなかった銀子も、栗栖の時々書いて見せる俳句とかいうものも
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
寒竹の垣根つづきの細道を、寒竹の竹の子を抜きながらゆくと何処でか藪鶯やぶうぐいすが鳴いている。カラカラと、すべりのいい門の戸をあけると、踏石ふみいしだけ残して、いろとりどりな松葉牡丹ぼたんが一面。
ホーホケキョウの地声の外にこの二種類の啼き方をするのが値打ちなのであるこれは藪鶯やぶうぐいすでは啼かないたまたま啼いてもホーキーベカコンと啼かずにホーキーベチャと啼くからきたない、ベカコンと
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
暖い日は、甲州の山が雪ながらほのかにかすむ。庭の梅の雪とこぼるゝあたりに耳珍しくも藪鶯やぶうぐいすの初音が響く。然しまだえ返える日が多い。三月もまだ中々寒い月である。初午はつうまには輪番りんばんに稲荷講の馳走ちそう
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
小禽ことり藪鶯やぶうぐいすの声がひっきりなしにきこえて来る。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
藪鶯やぶうぐいすも 啼きました
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
露時雨つゆしぐれ夜ごとにしげくなり行くほどに落葉朽ち腐るる植込うえごみのかげよりは絶えず土のくんじて、鶺鴒せきれい四十雀しじゅうから藪鶯やぶうぐいすなぞ小鳥の声は春にもましてにぎわし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「庭へ長い影法師がして、せっかく明神様の森から来た、藪鶯やぶうぐいすき止んだじゃないか。若くてイキの良い人間が門口かどぐちに立っていることが解らなくてどうするんだ」
藪鶯やぶうぐいすの声もする。世は戦いというのにあわれ啼きぬいている。秀吉は、左右へ向って云った。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父が書斎の丸窓まるまどそと外に、八手やつでの葉は墨より黒く、玉の様な其の花は蒼白あおしろく輝き、南天の実のまだ青い手水鉢ちょうずばちのほとりに藪鶯やぶうぐいす笹啼ささなき絶間たえまなく聞えて屋根、のき、窓、ひさし
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
月並つきなみに形容すれば、藪鶯やぶうぐいすの音といったような、愛らしい女の声です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かんざしの玉のような白い花の咲く八ツ手の葉陰には藪鶯やぶうぐいす笹啼ささなきしている。ひよどりは南天の実を啄もうと縁先に叫び萵雀あおじ鶺鴒せきれいは水たまりの苔を啄みながら庭の上にさえずる。鳩も鳴く。四十雀しじゅうからも鳴く。
写況雑記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こずえに高く一つ二つ取り残された柿の実も乾きしなびて、霜に染ったその葉さえ大抵たいていは落ちてしまうころである。百舌もずひよどりの声、藪鶯やぶうぐいす笹啼ささなきももうめずらしくはない。この時節に枇杷びわの花がさく。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)