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薄煙
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うすけむり
月のはじめに
秋立てば、あさ
朝顏の
露はあれど、
濡るゝともなき
薄煙、
軒を
繞るも
旱の
影、
炎の
山黒く
聳えて、
頓て
暑さに
崩るゝにも、
熱砂漲つて
大路を
走る。
三年ばかりたつた
後、汽車は
薄煙を残しながら、九百八十六部の「夢みつつ」を
北海道へ運んで行つた。
南——いずれを眺めても、
濛々たる
薄煙が、遥かに望まれておりまする
……
瞳は
水晶を
張つたやうで、
薄煙の
室を
透して
透通るばかり、
月も
射添ふ、と
思ふと、
紫も、
萌黄も、
袖の
色が
𤏋と
冴えて、
姿の
其處此處、
燃立つ
緋は、
炎の
亂るゝやうであつた。
薄暗い
中に
振仰いで見るばかりの、
丈長き女の
衣、低い天井から桂木の
背を
覗いて、
薄煙の
立迷ふ中に、
一本の
女郎花、
枯野に
彳んで
淋しさう、
然も
何となく
活々して、
扱帯一筋纏うたら