つぼ)” の例文
帯腰のしなやかさ、着流しはなおなよなよして、目許めもとがほんのりと睫毛まつげ濃く、つぼめる紅梅の唇が、艶々つやつやと、しずかびんの蔭にちらりと咲く。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つぼみとおもひしこずゑはな春雨しゆんうだしぬけにこれはこれはとおどろかるヽものなり、時機ときといふものヽ可笑をかしさにはおそのちいさきむねなにかんぜしか
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
毎日おびただしい花が咲いては落ちる。この花は昼間はみんなつぼんでいる。それが小さな、可愛らしい、夏夜の妖精フェアリーにぎこぶしとでも云った恰好をしている。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
伊太利イタリー唯一の天才と呼ばれた山岳画家ジョヴァンニ・セガンチーニが、夏の初めアルプス山の雪中で、つぼめる薔薇を発見して「薔薇の葉エ・ローズ・リーフ」という名画を描いた
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「まあいや!」美しきまゆはひそめど、裏切る微笑えみ薔薇ばらつぼめるごとき唇に流れぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
それにしても、今、彼の目の前にあるところのこの花の木の見すぼらしさよ! 彼は、かつて、非常に温い日向ひなたにあつた為めに寒中につぼんだところの薔薇を、故郷の家の庭で見た事もあつた。
人に依りてはツボはその花がつぼめる形ちで、あたかも壺に似ているからツボスミレだと解いていれど、私は既に往時のある識者が言っている様にこれは庭に生えているスミレの意であると思う。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
遊びはもともと輪を作って開いたりつぼんだり、立ったりかがんだりするのが眼目がんもくであった。そうして歌は、またその動作と、完全に間拍子まびょうしがあっている。作者がほかにあったろうと思われぬのである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
早春の風ひようひようと吹きにけりかちかちにつぼむ桜並木なみき
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
其人口をつぼめて言無かりきとて笑はれける。
遺訓 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
そのうらわかつぼみこそ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
……手にもむすばず、茶碗にもおくれて、浸して吸ったかと思うばかり、白地の手拭の端を、つぼむようにちょっとくわえてしおれた。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのときは、富士山が、怖ろしく大きく見えたが、見ているうちに、細くなってつぼんでしまった。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
晃然と霜柱のごとく光って、銃には殺気紫に、つぼめる青い竜胆りんどうよそおいを凝らした。筆者は、これを記すのに張合がない。
未だ芽組めぐんだばかりというところで、樺の青味を除けば、谷一面、褐色と白色とに支配せられている、谷はつぼんでいる故か、思ったより暖かなので、中岳と仮に名をつけた小隆起を屏風にして
槍ヶ岳第三回登山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「胸がせまって、ただ胸がせまって——お爺様、貴老あなたがおいとしゅうてなりません。しっかり抱いて上げたいわねえ。」と夜半よなかつぼむ、この一輪の赤い花、露をいたんでしおれたのである。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天鵞絨ビロードのように、手障りの柔らかな青い葉が、互い違いになって、柱のような茎を取りまいて居る、此柱の頭から、つぼみが花傘なりにむらがって、蛹虫さなぎむしの甲羅のように、小さく青く円くなっている。
菜の花 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
柳はほんのりとえ、花はふっくりとつぼんだ、昨日今日、緑、くれない、霞の紫、春のまさにたけなわならんとする気をめて、色の濃く、力の強いほど、五月雨さみだれか何ぞのような雨の灰汁あくに包まれては
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)