とも)” の例文
船が横網河岸へかゝったと思う時分に、忽ちとも異形いぎょうなろくろ首の変装人物が現れ、三味線に連れて滑稽極まる道化踊どうけおどりを始めました。
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
取舵とりかじだい‼」と叫ぶと見えしが、早くもともかた転行ころげゆき、疲れたる船子ふなこの握れるを奪いて、金輪際こんりんざいより生えたるごとくに突立つったちたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同じ夜、子刻こゝのつ過ぎ、永代のあたりから漕ぎ上がつた傳馬が一さう、濱町河岸に來ると、船頭がともの灯を外して、十文字に二度、三度と振りました。
あをみづうへには、三十石船さんじつこくぶねがゆつたりとうかんで、れた冬空ふゆぞらよわ日光につくわうを、ともからみよしへいツぱいにけてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
うるしの花だなも」で、たくみさおを操るともの船頭である。白のまんじゅう笠に黒色あざやかに秀山霊水と書いてある。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
のみならずともには葦原醜男、へさきには須世理姫の乗つてゐる容子も、手にとるやうに見る事が出来た。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なさけの風が女から吹く。声から、眼から、はだえから吹く。男にたすけられてともに行く女は、夕暮のヴェニスをながむるためか、扶くる男はわがみゃく稲妻いなずまの血を走らすためか。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
船のともが向いている方に、ぼんやりと雲か島か分らないものが見えていたが、それは陸地だと分った。左右にずっとのびている。そうだ、あれだ、イタリア半島なのだ。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
船頭同士が声を掛け合って、伊勢屋の一行は前の船のともを渡って行くことになった。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
裸足はだしでとび乗った英夫は、はじめから足の裏の感じで気付いていたが、円い背中のような部分に触れて見ても、全体が鋼鉄で出来ているらしく、それにともへさきも、おなじようにとがっていた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
武はチヨコント、ともの方へ座つてニコ/\して居り升た。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
同じ夜、子刻ここのつ(十二時)過ぎ、永代えいたいのあたりからぎ上がった伝馬てんまが一そう、浜町河岸に来ると、船頭がともを外して、十文字に二度、三度と振りました。
まさにこのときともかたあらわれたる船長せんちょうは、矗立しゅくりつして水先を打瞶うちまもりぬ。俄然がぜん汽笛の声は死黙しもくつんざきてとどろけり。万事休す! と乗客は割るるがごとくに響動どよめきぬ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人は、豆潜水艇のともに近いかべに、いもりのように、へばりついているのでした。
豆潜水艇の行方 (新字新仮名) / 海野十三(著)
僕の父の友人の一人ひとり夜網よあみを打ちに出てゐたところ、何かともあがつたのを見ると、甲羅かふらだけでもたらひほどあるすつぽんだつたなどと話してゐた。僕は勿論かういふ話をことごとく事実とは思つてゐない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
トニーは、ともに腰をおろして、しきりに受信機をいじっていました。
豆潜水艇の行方 (新字新仮名) / 海野十三(著)