膠着こうちゃく)” の例文
これが社会生活に強い惰性となって膠着こうちゃくしている。そういう生活態度に適応する為めには、お前のような行き方は大変に都合がいい。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ある夜、家の者は皆眠っていたが、彼は一人室の中にすわって、何にも考えもせず、身動きもせず、危険な考えの中に膠着こうちゃくしていた。
そのあいだには、羽柴軍や丹羽軍の赫々かっかくたる戦功が両方面から聞えてくるのである。——光秀は、膠着こうちゃくしたままの自軍をながめて
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
膠着こうちゃくした微笑が消え、なにか、うつけたような茫漠ぼうばくとした表情になって、目を遠くの空へ放した。……激昂げっこうが、ぼくをおそった。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
藤左衛門は幾度か気を変えて途中からそうとしましたが、唇は笛の歌口に膠着こうちゃくして、不気味な調べが嚠喨りゅうりょうと高鳴るばかり。
いわゆる打ち越しに膠着こうちゃくし、観音開きとなって三句がトリプチコンを形成するようになりたがるものである。これはもとより当然のことである。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
戸は非常な勢いで閉ざされて戸口の中にはまり込みながら、しがみついていた一兵士の五本の指を切り取り、そのままそれを戸の縁に膠着こうちゃくさした。
現実の一面が固定的に膠着こうちゃくした状態にあるからといって、私たちの主張を「所詮実行不可能の理想」といわれるのは平塚さんにも似合わない臆断です。
平塚さんと私の論争 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
指さす左のほうに、右舷うげんを砂浜に膠着こうちゃくさして、一せきのボートがうちあげられているのが、かすかにそれと見える。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
主は主、客は客としてどこまでも膠着こうちゃくするが故に、一たび優勢なる客に逢うとき、八方より無形の太刀たちふるって、打ちのめさるるがごとき心地がする。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
膠着こうちゃくしているのではない、浮かれ、うらぶれ、漂いながら、一つところのような湖面に戯れているらしい。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おのれの生涯の不幸が、相かわらず鉄のようにぶあいそに膠着こうちゃくしている状態を目撃して、あたしは、いつも、こうなんだ、と自分ながら気味悪いほどに落ちついた。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
表紙と中味の連絡は、中身のかがり糸で表紙に膠着こうちゃくされ、その上を見返し紙が抑える。ぞんざいなのは背と峰に貼付けただけのもある。之は表紙の紙が切れて放れ易い。
書籍の風俗 (新字新仮名) / 恩地孝四郎(著)
貝形の爪が、指さきの肉と、しっかり膠着こうちゃくしている。その肉と爪の間へ、木綿針をつきさしている。小指からはじめて、薬指、中指、人さし指に針をつきさゝれていた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
本居宣長もとおりのりながのごときは、三十四、五歳時代の著述なる「石上私淑言いそのかみささめごと」の議論は彼が一生の議論にして、彼が論理は六十を越て、毫も変化を見ざりしがごとく、脳力の固定思想の膠着こうちゃく
絶対的人格:正岡先生論 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そういう口上そのものが年を経るとともに一層固くなりつよく膠着こうちゃくするものであって、物識り顔からそういう謬見びゅうけんをこそぎおとすにはよっぽど鏝でごしごしやらなければならない。
あるいは、あなた方、先生の教えは、芸に熱して、男女間は淡泊、その濃密膠着こうちゃくでなく、あっさりという方針ででもおあんなさるか、一度内々で、と思った折でもありますのでして。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
秋成は、儒者の現実的合理主義を排撃し、封建思想の人間性抹殺をにくんだ。すくなくとも現実の封建社会は、儒教思想によって身うごきできないまでに膠着こうちゃく化し形式化してしまっている。
雨月物語:04 解説 (新字新仮名) / 鵜月洋(著)
秋成は、儒者の現実的合理主義を排撃し、封建思想の人間性抹殺をにくんだ。すくなくとも現実の封建社会は、儒教思想によって身うごきできないまでに膠着こうちゃく化し形式化してしまっている。
ふた抱えもある松の幹は絶好な背の守りかに見える。しかし武蔵はそこに長く膠着こうちゃくしていることはかえって不利としているらしい。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
筆一本握る事もせずに朝から晩まで葉子に膠着こうちゃくし、感傷的なくせに恐ろしくわがままで、今日こんにち今日の生活にさえ事欠きながら
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼の頭にはおそらくこの「夕飯ゆうめしのかますご」が膠着こうちゃくしていてそれから六句目の自分の当番になって「宵々よいよい」の「あつ風呂ぶろ」が出現した感がある。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ただ今から顧みても、少し得意なのは、その時余の態度挙動は非常に落ちついて、魂がさも丹田たんでん膠着こうちゃくしているかのごとく河村さんには見えたろうという自覚である。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
周囲のものをことごとく枯死さしていた。そして敵がなくなると、たがいにぶつかり合い、猛然とからみ合い、裂き合い、膠着こうちゃくし合い、ねじ合って、大洪水こうずい以前の怪物のようであった。
皆んなの眼は良海尼のよくり丸めた、碧空あおぞらのような頭に膠着こうちゃくしました。
平井山の長陣は、依然難攻の三木城を包囲したまま、膠着こうちゃく状態にあったけれど、こうして、裏面の外交工作は着々功を奏していたのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼻の頭にくっついたのを吹き飛ばそうとするところは少し人間臭いが、しり膠着こうちゃくしたのを取ろうとしてきりきり舞いをするあたりなど実におもしろい。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
愛には、本能と同じように既に種々な不純な属性的意味が膠着こうちゃくしているけれども、多くの名称の中で最も専門的でなく、かつ比較的に普遍的な内容をその言葉は含んでいるようだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
今朝見た通りの餅が、今朝見た通りの色で椀の底に膠着こうちゃくしている。白状するが餅というものは今まで一ぺんも口に入れた事がない。見るとうまそうにもあるし、また少しは気味きびがわるくもある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
柴田軍としてはそのことに先立って、極力、秀吉をここに膠着こうちゃくせしむべき方策を取り、信孝が作戦に有利な情勢を速やかに展開しておく必要もある。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが再び反発しないでそのまま膠着こうちゃくしてこんな形に生長するためには何かそれだけの機巧がなければならない。
小爆発二件 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私には下等動物といわれるものに通有な性質が残っているように、無機物の生活さえが膠着こうちゃくしていると見える。それは人の生活が最も緩慢となるところには何時いつでも現われる現象だ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「そうか。……ううム、しかしその曹操もまた急には除けまい。すでに戦いつつあるが、戦いは膠着こうちゃくの状態にある」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしその中に学界の監察官のようなかたが一人でもいて来客の肩の後ろで厳粛な顔をしていられると自分の口は自然に膠着こうちゃくしてしまって物が言えなくなる。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかしその花べんは存分に霜にしいたげられて、黄色に変色して互いに膠着こうちゃくして、恵み深い日の目にあっても開きようがなくなっていた。そんな間を二人は静かな豊かな心でさまよった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かくて義助の一軍は、ここの膠着こうちゃくをすてて、船坂、三石みついしの敵をやぶり、備前に入って、福山ノ城をも抜いた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尤も屠蘇そのものが既に塵埃の集塊のようなものかもしれないが、正月の引盃ひきさかずきの朱漆の面に膠着こうちゃくした塵はこれとは性質がちがい、また附着した菌の数も相当に多そうである。
新年雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
中国も伊丹も依然、膠着こうちゃく状態と化している。やや活溌にうごいているのは、丹波方面だけだった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
求めて一塊の岩礁に膠着こうちゃくして常に不自由をかこつ人も稀にはあることはあるように思われる。
学問の自由 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
つばの下に膠着こうちゃくしたまま、相手の眼の中へ、自分の眼光を突っこむような眼をしているのである。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
惟任日向守これとうひゅうがのかみたるの誇りもある。断じて、悠々と、ここに膠着こうちゃくを続けてはいられない。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二男の袁煕えんきや甥の高幹こうかんも、一方に陣地を構築し、三面から曹操を防いだのでさしもの曹軍も、やや喰いとめられ、戦いは翌八年の春にわたって、まったく膠着こうちゃく状態に入るかと見えたが
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、あとの尊氏の浮かぬ色をみた範国は、糧米の欠乏や、戦況の慢性的な膠着こうちゃくが、彼の憂いであろうと察して、種々、実状を説明していた。そして、それもまた熱心に聞く尊氏だった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なお、何かさけび、なおまだ、死の執念に膠着こうちゃくして、うごきもしない者たちへ
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、和議をはかったところで、あれだけの地域に膠着こうちゃくされていた大軍を急に撤回てっかいして、上洛して来るなどは思いもよらない。到底、至難なことである。と絶対に信じていたものらしかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生みの母胎ぼたいはその任務だけを果すと、やがて老いに帰して安んじなければならない——信長というものが、いつまで郷土に膠着こうちゃくしていないことは、郷土自体にはさびれでも、大きな意味で
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御影みかげの前哨戦から二日後、両軍ははやくもこの膠着こうちゃく陣形におちてしまった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦闘はもちろん瞬時も、一ヵ所に膠着こうちゃくしていない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)