羅衣うすもの)” の例文
雪の羅衣うすものに、霞の風帯ふうたい、髪には珊瑚さんご簪花さんかいと愛くるしく、桜桃おうとうに似るくちらんまぶた。いや蘭の葉そのものの如きしなやかな手ぶり足ぶり。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その柔かな羅衣うすものを隔てて彼女の胸に抱きかかえられてしまっては、私は全くしてはならないことをしたようで、自分の息が臭くはなかろうか
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
女たちはまた淡紅やピンク、薄紫、純白、色とりどりの柔らかな、肌も露な、羅衣うすものまとうて、やはり素足にサンダルを穿いて、裳裾もすそは長く地にいていた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
瑠璃子の心が火のやうに烈しく、石のやうに堅くても、羅衣うすものにも堪へないやうな、その優しい肉体は、荘田の強い把握のために、押し潰されてしまひはせぬか。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
女はその白い胸や腕を誇るようにあらわして、肌も透き通るような薄くれないの羅衣うすものを着ていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
京子は、ボイルのような、羅衣うすものを着ていた。しかし、その簡単な衣裳は、却って彼女の美に新鮮を与え青色の模様の下に、躍動する雪肌は、深海の海盤車ひとでのように、やわらかであった。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
小さな角燈がただ一つ、大岩の上にともっていて、湯の烟は羅衣うすものをひるがえすように、ほのめき、鈍い湯のうねりや岩壁のところどころが、おぼろに、まろやかに眼にうつるばかり。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
青い羅衣うすものをきたような淡路島が、間近に見えた。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おさなかった昔の羅衣うすものに身を包もうとして
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かをり高き羅衣うすもの
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
羅衣うすものに肌身の光る
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
夏なので、白絹すずしにちかい淡色うすいろうちぎに、羅衣うすものの襲ね色を袖や襟にのぞかせ、長やかな黒髪は、その人の身丈ほどもあるかとさえ思われた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瑠璃子の心が火のように烈しく、石のように堅くても、羅衣うすものにも堪えないような、その優しい肉体は、荘田の強い把握はあくのために、押しつぶされてしまいはせぬか。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
絽縮緬ろちりめんや、明石あかしや、いろいろの羅衣うすものにいたわられて居る若い美しい女達のむくむくした肉が、一様にやるせない暑さを訴えて、豚の体のようにふやけて居るのを見た。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
希臘ギリシャ古彫刻のように気高いその横顔を……透き徹るように美しい瑠璃色のひとみを……すっきりとして豊かなあごを……そして羅衣うすものの上衣の下からむっちりと隆起している両の乳房を
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
川向うの丘に立っている一人の男が、竹竿のさきに、童子の水干すいかんらしい紫いろの羅衣うすものをくくしつけて、しきりに振りぬいている様子なのだ。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時に、美しい少女が、ベトウリヤ第一の美しい少女が、侍女をたつた一人連れた切りで、羅衣うすものを纏つた美しい姿を、虎のやうなホロフェルネスの陣営に運んだのです。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
着換えの羅衣うすものや下着類が二三枚来ていただけなのであるが、それに読みさしの小説一冊を縮緬ちりめんの風呂敷に小さく包んだのをお春が持って、阪急の駅まで送って来たところは
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして同時に私がいかに全身をくすぐるような楽しい喜悦に心を躍らせながら、豪華絢爛なホテル・アルベアール・パラスの特別室で、今日は珍しくも黒づくめの羅衣うすもの鼈甲べっこう高櫛ペイネータ高々と
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
師賢は、轅越ながえごしに、近々と何事か承っていたが、やがてのこと、み手ずから賜わった香染こうぞめ羅衣うすものと、蒔絵の細太刀を拝して、こなたの群れのうちへ退がって来た。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時に、美しい少女が、ベトウリヤ第一の美しい少女が、侍女をたった一人連れた切りで、羅衣うすものまとった美しい姿を、とらのようなホロフェルネスの陣営に運んだのです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さびしい目鼻立のようだけれども、厚化粧をすると実に引き立つ顔で、二尺に余る袖丈そでたけ金紗きんしゃとジョウゼットの間子織あいのこおりのような、単衣ひとえ羅衣うすもの間着あいぎを着ているのが、こっくりした紫地に
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
見ると、彼方から女の影が夕靄ゆうもやにつつまれてくる。女は、羅衣うすもの被衣かつぎをかぶり、螺鈿鞍らでんぐらを置いた駒へ横乗りにって、手綱を、鞍のあたりへただ寄せあつめていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
友禅模様の羅衣うすものを着、洋装の悦子の手を引いて、外国人の紳士と少年とを案内しながら、帝国ホテルのロビーだの、丸の内の官衙街かんががいだのビルディング街だのに現れた光景を想像すると
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
束髪の冠をいただいて、身に羅衣うすものをまとい、鳳衣博帯ほうえはくたい朱履方裙しゅりほうくんした者を四人立て、左のひとりは長い竿に鶏の羽を挟んだのを持って風を招き、右のひとりは七星の竿を掲げ
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羅衣うすものかみしも舶載織はくさいおりはかま、草履も笠も新しいのを出させ、岩間家の仲間ちゅうげん
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その中にも、羅衣うすもの女小袖おんなこそでだの、扱帯しごきだのがあった。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)