ぬす)” の例文
新字:
〔譯〕ぜんは必ず事をし、けいは必ず人をづく。歴代れきだい姦雄かんゆうの如き、其ぬすむ者有り、一時亦能く志をぐ。畏る可きの至りなり。
ソコでぬすむが如くに水を飲んで、抜足をして台所を出ようとすると、忽ち奥坐舗の障子がサッと開いた。文三は振反ふりかいッて見て覚えず立止ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼は、いま、ぬすむやうに眼を上げた。おづ/\した、またかきみだされた容子ようすで、私をちらと見た。彼は再び繪に眼を移した。
「おゝ! お前は私を押し退けて、私の部下の愛をぬすみに来たんだな!」あゝ! それは恐ろしい事になるんだ。
三三ゆゑなき所に永くらじと、三四おのが身ひとつをぬすみて国にかへみちに、此のやまひにかかりて、思ひがけずも師をわづらはしむるは、身にあまりたる御恩めぐみにこそ。
この分けかたは、既に我空想をび起して、これを讀まんの願は、我心に溢れたり。されどダンテは禁斷のくだものなり。その味は、ぬすむにあらでは知るに由なし。
狐は寒をおそるゝ物ゆゑ、我里にては冬は見る事まれ也、春にいたり雪のふりやみたるころ、つもりたる雪中食にうゑて夜中人家にちかづき、物をぬすくらふ事はなはだにくむべし。
言ひつゝ瀧口が顏、ぬすむが如く見上ぐれば、默然として眼を閉ぢしまゝ、衣の袖のゆるぎも見せず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
が少女の方は、有名なセエラをぬすみ見たりしたら、きっと叱られるとでも思ったらしく、まるでびっくりばこの中の人形のように、ひょこりと台所の中へ隠れてしまいました。
うまい物をぬすんで少しも自ら味わわず病猴に与え、またしずかにこれを抱いて自分らの胸にかかえ、母が子に対するごとく叫んだが、小猴は病悩に耐えず、悲しんで予の顔を眺め
「旅は明日志す所へ着くというその夜は誰も安心して必ず其所でぬすみに逢うものなり」
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
ここより一の片句をぬすみ、かしこより一の断編をけずり、もってその政論を組成せんと試む、ここにおいて首尾の貫通を失い左右の支吾をきたし、とうてい一の論派たる価値あらず
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
何だか私自身の側にその死神でも密著くつついてゐる樣で、雨に濡れた五體が今更にうす寒くなつて來た。をり/\私の顏をぬすみ見する人たちの眼にも今までと違つた眞劍さが見えて來た樣だ。
熊野奈智山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
其処で甚六は小女の死骸を野原へ持って往って、捨てるように埋めて来たが、間もなく小女がぬすんだと云っていた品物が出て来た。これにはさすがの甚六も気がとがめたであろうと思われる。
一緒に歩く亡霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主君は歿ぼっし、国亡び、相手方吉良殿は無事と承わる今日に於ては、臣たる某共それがしどもには、自決の途はあるはずにござりまするが、ただ内匠頭の弟大学が控えておりまするままに、しばらく生をぬすんで
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或年雲飛うんぴ用事ようじありて外出したひまに、小偸人こぬすびとはひつて石をぬすんでしまつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
あるは、木履きぐつき惱み、あるは徒跣はだしぬす
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
おのがを ぬすせむと
ペツポの叫びけるやう。うぬは盜人なり。我錢をぬすやつなり。立派に廢人かたはといはるべき身にもあらで、たゞ目の見えぬを手柄顏に、わが口に入らむとする「パン」を奪ふこそ心得られねといひき。