いわい)” の例文
それは皆、日頃いつのまにか、彼を慕い、彼を徳としていた者が、彼の栄転を伝え聞いて、持ち込んで来たいわいであった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奥羽の一帯に古くから、この日をメダシのいわいといって女の遊ぶ日になっているが、その趣意はまだ私には明らかでない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ある晩、主人の少将の誕生いわいだというので、知人を呼んで御馳走ごちそうがあった。甲田君と私もその御相伴おしょうばんをした。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これさへ昨日黒衣めが、和殿を打ちしと聞き給ひ、喜ぶことななめならず、たちま守護まもりを解かしめつ。今宵は黄金丸を亡き者にせしいわいなりとて、さかんに酒宴を張らせたまひ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
乃公おれは昨日で満十一になった。誕生日のおいわいに何を上げようかとお母さんが言うから、乃公は日記帳が欲しいと答えた。するとお母さんは早速上等のを一冊買って呉れた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
其は翁が八十のいわいに出来た関牧場の画模様えもよう服紗ふくさと、命の洗濯、旅行日記、目ざまし草に一々うたおよび俳句はいく自署じしょしたものであった。両家族の者残らずにてゝ、各別かくべつに名前を書いてあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
新聞一枚に堅き約束を反故ほごとなして怒り玉うかとかこたれて見れば無理ならねど、子爵のもとゆきてより手紙はわずかに田原が一度もっきたりしばかり、此方こなたからりし度々の消息、はじめは親子再会のいわい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのいわい赤飯こわめしだ。その上に船賃ふなちんを取らんのだ。乗合のりあいもそれは目出度めでたいと言うので、いくらか包んでる者もあり、即吟そくぎんで無理に一句浮べる者もありさ。まあおもい思いにいわッてやったとおもいたまえ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
憶出おもいだせばこの琴はまだわたしが先生の塾にった時分何時いつぞや大阪おおさかに催された演奏会に、師の君につれられて行く時、父君ちちぎみわたしの初舞台のいわいにと買いたまわれたものだ、数千すせん人の聴客をもって満たされた
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
江戸の邸へは親類や友人達が来て帰国のいわいをするために待っていた。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この年四月に保は五百の還暦の賀延がえんを催して県令以下のいわいを受けた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
苅上かりあいわいといいもしくは苅上げ盆という語も行われており(『富山市近在方言集』)、現にこの日をもって一応小さな祝をする風習も各地にある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
兎も角疲れているだろうからという伯母の心遣いで、富美子丈けは居間に退き床についた様子でしたが、私達の前にはおいわいとあって、用意の酒肴しゅこうが運ばれる。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
開通即下のごったかえす㓐別館の片隅で、いわいの赤飯で夕飯を済まし、人夫の一人に当年五歳の女児鶴、一人に荷物を負ってもらい、余等夫婦洋傘をしてあとにつき、斗満とまむの関牧場さして出かける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)