じわ)” の例文
ちりめんじわが寄って暗いもの、あたい、どうしようかと毎日くよくよしているんだけど、おじさまだって判ってくれないもの。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
また首の具合がいかにも亀の如くに、伸したり縮めたりする動作に適して長くぬらくらとして、喉の中央には深い横じわが幾筋も刻まれていた。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
罪の人にありがちな、神経質な顔に、おそろしく、若い明るさを傷つけるじわが、眉のあいだに、針のように立っている。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
顔に小じわは寄つて居るが、色の白い、目の晴やかに大きい、伯爵夫人と言つても好い程のひんのある女である。博士も何か謡曲の一せつうたはれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
渾名をたこと云って、ちょんぼりと目の丸い、額に見上げじわ夥多おびただしいおんなで、主税が玄関に居た頃勤めた女中おさんどん。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見苦しいたたじわが幾筋もお延の眼にった。アイロンの注意でもしてやるべきところを、彼女はまたぎゃくった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのひたいには、この世のものとも思われぬ、激しい苦悩のたてじわ刻込きざみこまれ、強いてこらえる息使いと一緒に、眼尻から顳顬こめかみにかけての薄い皮膚がぴくぴくとふる
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
其の女は、前で結んだ美しい帶を、白い手で撫でながら、かう言つて、莞爾につこりと笑つた。其の顏には小じわが多くて、ツンと高い鼻の側面に一かたまりの菊石みつちやが、つくねたやうになつてゐた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
垢染あかじみて、貧乏じわのおびただしくたたまれた、渋紙のような頬げたに、平手で押し拭われたらしい涙のあとが濡れたままで残っている。そこには白髪の三本ほど生えた大きないぼもあった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼はなにか地上では見られなかった深海の魚巣ぎょそうでもかし見たようにその片目じわと、足のしびれをも忘れていた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかひんの好い一寸見ちよいとみには三十二三と想はれるが、ぢつむかへば小じわの寄つた、若作りの婦人である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
年寄としよりは真顔になり、見上げじわ沢山たんと寄せて
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
サラと簾を片手で上へかかげて、親鸞はそこから半身を見せた、そして、朱泥あけで描いた魔神のような弁円の顔をじろと眺め、そのまなじりに、ニコリと長いじわを刻むと
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵は、血膿ちうみによごれた足のボロを解いていた。あれほど悩ませた患部は、すっかり熱もれもひいて、平べったくなっていた。白くふやけた皮に、ちりめんじわが寄っているだけだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皮膚のつやは、老人ぎらいな負けん気をあらわし、少し白いのも交じってはいるが、太い口髯くちひげを、左右へ生やして、その髯がまた、歯のない唇のまわりの梅干じわを巧くかくしているのであった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヨハンは深いひげのなかに笑いじわをよせて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)