生贄いけにえ)” の例文
諸人の不安がだんだん募って来た時、鬼娘は更に第三の生贄いけにえを求めた。それは庄太のとなりに住んでいるお作という娘であった。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さるゆえ竜造寺長門、これをあやめるに何の不思議があろうぞ。憎むべき仏敵斃すために、人夫の十人二十人、生贄いけにえにする位は当り前じゃわ
豚や牛のように人間を殺して生贄いけにえとすることは西洋には昔はよくあったらしいが、それが神をあがめ慰めるだけでなく
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこで俺が宗春の代りに、この生贄いけにえを賞玩しようと思う。俺はな、随分いい年だ。精力も決して絶倫とは云えない。だから一層こういう女が欲しい。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
眼に立たないように、工場や、農村や、船や、等々で、なし崩しに消されて行く、一つの生贄いけにえで、彼もあった。——
労働者の居ない船 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
彼女は全く歩行する能力をも失ったかのようにして人々の肩にかつがれ、輿こしに乗せられて生贄いけにえを送るというふうに、親たちに泣かれてとついだのであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いいえ、その恐ろしいお望みのため、この私までを、伊吹の入道の生贄いけにえにささげたではありませんか。何もかも夕がた私は茶堂のかげで聞いていました。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「貴様は幸運な奴じゃな、今宵はわしの祖先の百回忌で、女三人、男五人を生贄いけにえに祭る日じゃ、貴様が男では五人め——最後の贄になるのじゃ、名誉であろうが」
其角と山賊と殿様 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「オプフェル(生贄いけにえ)」という言葉を使ったのである。途方にくれた英国人は頭の中で訳語を探したが、探してもむだだった。ぜんぜん、その意味が思い出せないのだ。
うまく味わうが為に雉子きじの一羽や二羽のいけづくりが何であろう。風の神にささげる野猪いのししの一匹や二匹の生贄いけにえが何であろう。易牙えきがが子をあぶり物にして君にささげたという。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
当日の生贄いけにえとなった例の女(後で判明したが、彼女はおてるという二十二歳になる料理屋の女で、その日はこの向井湯の近所に住む伯母の所を訪ねて来た者であった)の肉体に魅力みりょくを感じ
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは一八二四年にアルダンの一人の木樵きこりがすばらしく大きな一本の樫の木を伐り倒した。その幹の中に、生贄いけにえの瓶と、古い貨幣が見出された。此の古い樫は千五百年か千六百年の間生きてゐたのだ。
それとも王様の御心痛の生贄いけにえ、グレシアの民の
けれども、お葉の方はまだらちが明かぬ。彼女かれは依然として生贄いけにえの冬子を掴んでいるのであった。市郎は気が気でない。忙しい中にも駈け寄って
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
半裸体にされた可哀そうな浜路、しっかり宗春に抱きすくめられ、処女を生贄いけにえにされようとしている。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三河の当時の田舎の神祭りの式で、生贄いけにえを神に献じて暴風悪風の田穀を荒さぬようにと祈るのであった。趣意はもとより悪いことではない、例は年々行われて来たことだった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それこそは、人の上の中参の魔王が、生贄いけにえへ臨む刹那せつなを思わすような貪欲どんよくと魅力であった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今夜の生贄いけにえは五人だが、丁度これで五人目だから、これで役目も終った、あとはさらって来た例の女をさかなに朝まで呑み明そう——などと、不気味なことを低い声で話し合っている。
其角と山賊と殿様 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だが、血と肉とで積み上げられた歴史は、その生贄いけにえがはなはだしかっただけ、それだけ美しい花が咲くんだ。歴史が行く道をおれはついて行き、その歴史のを押せばいいのだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
湖水の西のふちには九つの頭を有する悪龍が棲んでいて、土地の少女を其の生贄いけにえとして取りくらっていたが、満巻上人の神呪しんじゅによってさすがの悪龍も永く蟄伏ちっぷく
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だから、かりそめにも、その息女を生贄いけにえとして遂げようとする謀略と聞いては、それが呉国の為であるとかないとかなどは問題でなく、頭から老いの感傷と怒りをふるわせて
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩見いわみ武勇伝に出て来る鎮守ちんじゅの神——その正体は狒々ひひである——の生贄いけにえとして、白羽しらはの矢を立てられはせぬかと、戦々兢々きょうきょうたる娘、及び娘を持てる親たちのような恐れと、哀れとを
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「松本伊豆守が好色の田沼へ、賄賂まいないとして送った生贄いけにえ、それがこの婦人なのだ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
歩行も自由でない一本足の少女などは、この場合おそらく逃げおくれて最初の生贄いけにえとなったであろう。夫婦が少女を救ったことは幸いに誰にも知られなかった。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼女の父石見いわみからは、足を薙ぐは邪道の剣と、こういわれてたしなめられ、娘には恋を拒絶された。これが彼をして石見を殺し、織江を田沼の生贄いけにえにするべく、策を施した理由なのであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「こやつか、血祭りの生贄いけにえは!」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大蛇は人の夢にあらわれ、または巫女みこなどの口を仮りて、十二、三歳の少女を生贄いけにえにささげろと言った。
「いや引っ捕らえろ! 生贄いけにえにしろ!」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つまりは近江屋の娘を生贄いけにえにして、自分の都合のよいことをたくらんだのである。それを知って、お峰は腹立たしくなった。あまりにひどい仕方であると伯父を憎んだ。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蛇は首をもたげて生贄いけにえに進み寄って来るので、汪は眼をとじて、いよいよ一心に念誦ねんじゅしていると、蛇は一丈ほどの前まで進んで来ながら、何物にかさえぎられるように逡巡しりごみした。
「望みを遂ぐる時節も近づいたと思うたら、丁度幸い男と女の生贄いけにえを手に入れた」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その当時はここらは森や岡も多く、武家屋敷の空地や草原も多いのであるから、蝮や蛇もめずらしくない。明けてある雨戸のあいだから這い込んで来て、運の悪いお由がその生贄いけにえになったのであろう。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
第二の生贄いけにえとなった小間物屋の女房も、やはり同じ運命であった。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
玉虫 呪詛のろしのしるしあらわれて、ここにふたつの生贄いけにえをならべた。源氏の運も長からず、一代…二代……。(指折りかぞえて。)おそくも三代の末までには……。かならず根絶やしにして見しょうぞ。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もしや自分を生贄いけにえにして何かの神を祭るのではないかとも疑った。
いずれにしても、三津子さんは世に悼ましい生贄いけにえでありました。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「わたしを神への生贄いけにえにしようとか。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)