生爪なまづめ)” の例文
その上慣れない仕事だけに、豆をこしらへたり、生爪なまづめいだり、何かと不自由も起り勝ちだつた。彼は時々鍬を捨てると、死んだやうに其処へ横になつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
御覧なさい、こうやって、五体の満足なはいうまでもない、谷へも落ちなけりゃ、いわにもつまずかず、衣物きものほころびが切れようじゃなし、生爪なまづめ一つはがしやしない。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そりゃあお前さんの云う通りだ。万さんもなかなか慾張っているからね。ときどき生爪なまづめを剥がすことがあるのさ。そこで、あの掛地はどこの出物でものですえ」
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
余が廿貫目の婆さんに降参して自転車責にってより以来、大落五度小落はその数を知らず、或時は石垣にぶつかって向脛むこうずねりむき、或る時は立木に突き当って生爪なまづめがす
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
道服を着た医師くすしめいた男が、盆の上に整然と並べられている、小刀メス小槌こづち小鋸このこぎり生皮剥なまかわはぎの薄刃物、生き眼刳りの小菱鉾こびしぼこ生爪なまづめ剥がしの偃月えんげつ形のきり、幾本かの針といったような物を
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いままで気がつかなかったがこのとき足の拇指おやゆびが痛みだした。手をやってみると生爪なまづめがはがれてある、かれは大地に座りこんだ。そうしてへこ帯をひきさいて足を繃帯ほうたいすることに決めた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
もう一度、念入りに富太郎の死體を見ると、何處にも傷はないと思つたのは間違ひで、右手も、左手も、生爪なまづめが少しけて、爪際から血がにじんで居るのです。併し、それだけのことです。
風吹きすさみ熱砂顔にぶつかる時ふさぎてあゆめば、邪見じゃけん喇叭らっぱけろがら/\の馬車にきもちゞみあがり、雨降りしきりては新道しんどうのさくれ石足をむに生爪なまづめはがし悩むを胴慾どうよくの車夫法外のむさぼ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「そのとおりだ。おせんのについてた、嘘偽うそいつわりのねえ生爪なまづめなんだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「……何度、この足の指の生爪なまづめげたら、その日が来るか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平田氏は生爪なまづめをはがして、うんうん唸っているのだ。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
兵士達は、自分の生爪なまづめをもがれるように身慄いした。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
右の方へかくれたから、角へ出て見ようと、急足いそぎあしに出よう、とすると、れないびっこですから、腕へ台についた杖を忘れて、つまずいて、のめったので、生爪なまづめをはがしたのです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それには俺も首をひねつたが、生爪なまづめが痛んでるのを見て解つたよ。あれは、お前が飛出した後へそつと入つた六兵衞が、掻卷かいまきへ包んだまゝ、目を廻した子供を佛壇の下の抽斗ひきだしの奧へ入れたんだ」
たまたま、生爪なまづめでもがしたのが、まごついてでもいると
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「落ちる時に蹴爪けつまずいて生爪なまづめがした」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
髪の毛をむしられていようが、生爪なまづめをはがれて焼火箸やけひばしで突かれていようが、乳の下を蹴つけられて、呼吸いきの絶えるような事が一日に二度ぐらいずつはきっと有ろうと、暗い処に日の目も見ないで
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「石につまずいて、生爪なまづめがしてしまいましたわい」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)