物色ぶっしょく)” の例文
友仁はどこへ往って自分のことを祈願しようかと思って彼方此方と物色ぶっしょくして歩いた。と、ひとところ燈火の点いてない暗い所があった。
富貴発跡司志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
のみならずその笑い声はだんだん声高こわだかになって来るらしい。保吉は内心ぎょっとしながら、藤田大佐の肩越しに向う側の人々を物色ぶっしょくした。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
広い風呂場をてらすものは、ただ一つの小さき洋灯ランプのみであるから、この隔りでは澄切った空気をひかえてさえ、しか物色ぶっしょくはむずかしい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてあなたこなたを物色ぶっしょくしてくると、白砂をしいた、まばらな松のなかにチラチラあかりのもれている一軒の家が目についた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕だって時には謀叛心むほんしんが起る。君あたりのところは申分ないけれど、大抵は天二物を与えずで、物色ぶっしょくの余地がないからな。
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いわば辻君つじぎみの多く出没する場所で、女たちは、芝居や寄席よせのはじまる八時半ごろから、この付近の大通りや横町を遊弋ゆうよくして、街上に男を物色ぶっしょくする。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
おもな用件は、講師じんの編成とか、助手や炊事夫すいじふその他の使用人の物色ぶっしょくとかいうことにあったらしく、帰ってくるとその人選難をかこつことがしばしばだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
鶴ヶ岳の高さと登山口を物色ぶっしょくする意であった、ところがこの図には鶴ヶ岳の名が載せてない、予察図の鶴ヶ岳の辺とおもわるる所に、平岳 2170 というのが記してある
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
そこで始めて皆が疑いだしたが、周は成の心の異っていたことを知っているので、人をやって成のいそうな寺や山をあまね物色ぶっしょくさすと共に、時どき金やきぬをその子にめぐんでやった。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「だれか、冥土めいどみちづれにするものはないかな。」と、人間にんげん物色ぶっしょくしていたのです。
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)
屋内おくないはべつに取乱とりみだされず、犯人はんにんなにかを物色ぶっしょくしたという形跡けいせきもないから、盗賊とうぞく所為しょいではないらしく、したがつて殺人さつじん動機どうきは、怨恨えんこん痴情ちじょうなどだろうという推定すいていがついたが、さて現場げんばでは
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
その持場の許された場面だけに物色ぶっしょくの叫びをあげているらしい。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
壁を請負うけおった壁辰の親方のすがたを物色ぶっしょくした。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
額堂がくどうは吹きさらしだし、拝殿はいでん廊下ろうかへねては神主かんぬしおこるだろうし、と、しきりに寝床ねどこ物色ぶっしょくしてきた蛾次郎がじろう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
探偵たんていとして物色ぶっしょくされた男は、ふところからまた薄い手帳を出して、その中へ鉛筆で何かしきりに書きつけ始めた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんなことで、内々適任者を物色ぶっしょくしていたところだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼らがり抜けるように私たちのそばを通って行く時、眼を上げて物色ぶっしょくすると、どれもこれも若い男と若い女ばかりです。私はこういう一対いっついに何度か出合いました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三四郎は様子を見ているうちにたしかに水蜜桃だと物色ぶっしょくした。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)