トップ
>
燠
>
おき
ふりがな文庫
“
燠
(
おき
)” の例文
それにも増して、刀身へ穴でも
穿
(
あ
)
けるかのように、その刀身を見詰めているのは、
燠
(
おき
)
のように熱を持った薪左衛門の眼であった。
血曼陀羅紙帳武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
おしんは竈の下から
燠
(
おき
)
を『十能』に入れて、表の室のマツチの屑と、煙草の吸殻で一杯になつて居る穢い長火鉢に入れながら
死線を越えて:01 死線を越えて
(新字旧仮名)
/
賀川豊彦
(著)
長吉は黙って掌で
燠
(
おき
)
の見当をつけて煙草を
点
(
つ
)
けた。お杉の顔は
嘲
(
あざけ
)
りでいっぱいになっていた。お杉は次の
室
(
へや
)
へ顔をやった。
春心
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
それへ
上手
(
じょうず
)
に灰を掛けて、朝は真赤な
燠
(
おき
)
になっているようにして置く事が、今でも
家刀自
(
いえとじ
)
の
技倆
(
ぎりょう
)
であり、また威望の根拠でもあるごとく見られていた。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
「元始、女性は太陽であった」といったらいてうの落日のはやさや、晶子の情熱の
燠
(
おき
)
の姿に身をもってあらがうように、田村俊子の作品がうちだされた。
婦人作家
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
▼ もっと見る
そのうちに、あたりがそろそろ暗くなり出し、おりおり炉の中でくずれる
燠
(
おき
)
が、ぱっと明るく彼の顔をてらした。
次郎物語:02 第二部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
微睡
(
まどろみ
)
の睫毛はみてゐる。……囲炉裏に白くなつた
燠
(
おき
)
を。(それが、宛らわたしの白骨、焼かれた残んの
骨
(
ほね
)
に似る)
雪
(新字旧仮名)
/
高祖保
(著)
肉刺
(
まめ
)
が出來てはつぶれ、出來てはつぶれして、手の平の皮が次第に厚くなつて來た。もうぢき、平氣で素手で
燠
(
おき
)
をつかむといふやうなことにもなるだらう。
生活の探求
(旧字旧仮名)
/
島木健作
(著)
こんな片田舎のことだ、巴里ッ児の真似は出来るもんでもない、私たちは
燠
(
おき
)
でまア辛抱しなけれアなるまいよ。それにもう、そう云ってるうちにじき春だからね
初雪
(新字新仮名)
/
ギ・ド・モーパッサン
(著)
これらの火は翌朝十時ごろ焔はなきも、
燠
(
おき
)
はなほ盛なりという。また塔の中段に丸窓はあるも、硝子なし。
地震なまず
(新字新仮名)
/
武者金吉
(著)
さう言つて、煙管から煙草の
燠
(
おき
)
を藁束のなかへはたき落すと共に、フウフウ吹きはじめた。切羽つまつた哀れな村長の義妹は、やつとその時、元気を取り戻した。
ディカーニカ近郷夜話 前篇:05 五月の夜(または水死女)
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
女たちが出て行ったあとの炉ばたで、白い灰をかぶった
燠
(
おき
)
を見ながら彼は凝然としていた。第一は、目下の食糧購入費を得るために、『税庫建築』を請負うこと。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
お袋は箱篩の手を止めて上り
框
(
がまち
)
の冷え切つた火鉢へ粗朶をぼち/\と折り燻べた。煙が狹い家に薄く滿ちた時に火鉢へは
燠
(
おき
)
が出來て煤けた鐵瓶がちう/\鳴り出した。
芋掘り
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
竈の戸を開いて大きな十能で
燠
(
おき
)
をすくつて外へ出した。皆其処へ寄りて竹火箸で骨をえり乱した。
厄年
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
あの秋の祭に雪子の家に
請待
(
しやうだい
)
を受けて、瀬戸の火鉢のふちをかゝへて立つと手から
辷
(
すべ
)
り落ち灰や
燠
(
おき
)
が畳いつぱいにちらばつた時の面目なさが新に思ひ出されては、あるに堪へなく
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
日々の馴れとて、わたくしは、われと黒髪をよもぎに撒き散らし、簪に野茨を挟む
術
(
て
)
も、焚火の
燠
(
おき
)
を河泥に混ぜて顔を隈かき絵取る術も、わざとらしいものには思わなくなりました。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
そうして、大いなる
燠
(
おき
)
のひとつを
鷲掴
(
わしづか
)
みにして、再び弁兆の眼前を立ちふさいだ。
閑山
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
ストーヴが一つ片すみにあって、火が燃されて
燠
(
おき
)
が見えていた。表通りの街燈が、その貧しい室のうちにぼんやりした明るみを投じていた。奥の方に別室があって、たたみ寝台が置いてあった。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
死者の
埃
(
ほこり
)
の下にその
燠
(
おき
)
はまだ残っていた。マチィーニの眼とともに消えてしまったと思われるその火はふたたび燃えだしていた。昔と同じ火であった。それを見ようとする者はきわめて少なかった。
ジャン・クリストフ:12 第十巻 新しき日
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
夜の満都の灯 明滅するネオンの
燠
(
おき
)
のうえ トンネルのような闇空に
原爆詩集
(新字新仮名)
/
峠三吉
(著)
春ゆふべ眼に白らけゆく
燠
(
おき
)
の色のもの
柔
(
やは
)
きかなや火桶かい
撫
(
な
)
づ
黒檜
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
みたされない
堯
(
たかし
)
の心の
燠
(
おき
)
にも、やがてその火は燃えうつった。
冬の日
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
あとに
燠
(
おき
)
が残つたので、その燠でおみおつけも出来た。
津軽
(新字旧仮名)
/
太宰治
(著)
燠
(
おき
)
火を廣く散らし布き、其上串を据えかざし
イーリアス:03 イーリアス
(旧字旧仮名)
/
ホーマー
(著)
砥石が無けりゃ
燠
(
おき
)
をのせてやってもいい。
えぞおばけ列伝
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
「火を、ようしめせよ、
燠
(
おき
)
が散るぞよ。」
茸の舞姫
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
氷河、白銀の太陽、真珠の波、
燠
(
おき
)
の空
ランボオ詩集
(新字旧仮名)
/
ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー
(著)
また
燠
(
おき
)
を
霊床
(
たまどこ
)
とする
頌歌
(新字旧仮名)
/
富永太郎
(著)
わたしは
水馬歯
(
みづはこべ
)
を刻んで、それへ
該里
(
シェリイ
)
の酒を滴らせる。秋ばかりは、金いろの時間が、
燠
(
おき
)
のやうに
燻
(
いぶ
)
つて。…
雪
(新字旧仮名)
/
高祖保
(著)
仕事も早じまいだったらしく、炉の中には、灰になりかかった
燠
(
おき
)
が、ひっそりとしずまりかえっていた。
次郎物語:02 第二部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
と、夕陽の加減ばかりではなくて、本来が鋭い眼だからでもあろう、瞳のあたりに
燠
(
おき
)
のような光が、チラ、チラ、チラと燃えるように見えた、妖精じみた光である。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
いまの多計代にのこっているものは、その
燠
(
おき
)
であり灰だとして、その燠と灰とは、様々の涙にしめらされて、何ときつい刺戟する匂いを立ちのぼらしているだろう。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
まつたくこれは不思議だ! 蠢めきながら見る見る大きくなつて、まるで
燠
(
おき
)
のやうに赤くなつた。
ディカーニカ近郷夜話 前篇:04 イワン・クパーラの前夜
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
燠
(
おき
)
のたつた火を、その
儘
(
まま
)
にして彼は、湯鑵を再びその上へかけた。彼はもう茶を入れて飲む方の興味は失つて居たが、水が湯になるあの過程の微妙な音のひびきは続けて置きたかつた。
上田秋成の晩年
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
クヨークリは
燠
(
おき
)
のごとく具体的ならず、炉から外へ出せばたちまちにしてただの灰と化し去る。すなわち第二のコタツ、日中のコタツの、以前は自在に企てえられざりしゆえんである。
雪国の春
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
書
(
ふみ
)
読みて楽しかりにし
昨
(
きぞ
)
思
(
も
)
へば
燠
(
おき
)
掻きほぜり冬よるべなし
黒檜
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
「
燠
(
おき
)
が残つてゐたわけだ。行かう。」
津軽
(新字旧仮名)
/
太宰治
(著)
その虫は
燠
(
おき
)
の上でぷちりと
動顛
(
どうてん
)
した。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
繻子
(
しゆす
)
の肌した深紅の
燠
(
おき
)
よ
ランボオ詩集
(新字旧仮名)
/
ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー
(著)
ちやうど百姓が煙草を吸ひつけようとして素手で
燠
(
おき
)
を持つた時のやうに渋面を作つてフウフウ息を吹きかけながら、月をこちらの手からあちらの手へと持ち換へ持ち換へしてゐたが
ディカーニカ近郷夜話 後篇:02 降誕祭の前夜
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
ツケダケのタケは焚くという語との関係も考えられるが、なお私たちは竹細工の
屑
(
くず
)
のことだろうと解している。それを乾かして貯えて置いて、直接に
燠
(
おき
)
の火にその
一握
(
ひとつか
)
みを押当てて吹いたのである。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
煖炉の
燠
(
おき
)
に据えている伸子の指は、やがて、自働的に動きだし、大きく二つに裂かれたままになっていた素子の手紙を、更にほそいたてにさき、またそれを、もっとこまかいきれにちぎって行った。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
そうして嘉右衛門の見開かれた眼に、
燠
(
おき
)
のような光が燃えて来た。
十二神貝十郎手柄話
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
老人は、
燠
(
おき
)
の火の中から黒い塊を火串で拾い刺して
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
婆々
(
ばばあ
)
はゐてサ、
燠
(
おき
)
の前でヨ
ランボオ詩集
(新字旧仮名)
/
ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー
(著)
火の
燠
(
おき
)
を貰っていつものように
暖
(
あたたま
)
ろうとしました。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
燠
漢検1級
部首:⽕
17画
“燠”を含む語句
燠火
鬱燠