焼火箸やけひばし)” の例文
六条は、突然右胸部きょうぶ焼火箸やけひばしをつきこまれたような疼痛とうつうを感じた。胸に手をやってみると、てのひらにベットリ血だ。とたんに彼ははげしくせんだ。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その言葉の端が大西氏の焦立いらだつた神経に触つたものか、博士のお喋舌しやべりが済むか済まないうちに、大西氏はいきなり焼火箸やけひばしのやうな真赤な言葉を投げつけた。
四つか五つの時分に、焼火箸やけひばしおしつけられたあとは、今でも丸々した手の甲の肉のうえにあざのように残っている。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まむしの首を焼火箸やけひばしで突いたほどのたたりはあるだろう、とおなかじゃあ慄然ぞっといたしまして、じじいはどうしたと聞きましたら
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
焼火箸やけひばしをいきなり尻にあてることや、六角棒で腰が立たなくなる程なぐりつけることは「毎日」だった。飯を食っていると、急に、裏で鋭い叫び声が起る。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
嫁入着物に糊附のりづけものを売ったため、嫁御寮よめごりょうの変死から、その母親が怨みののろい「め」と書いては焼火箸やけひばしをつきさしていたという、怪談ばなしの本家江島屋の
今夕、病院が終ると、先生、病院の鍵をかけ、諸井看護婦を裸に縛りあげて、焼火箸やけひばしと、外科のメスだのはさみだの取そろえましてね、驚くべき拷問をはじめたのですね。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
この船が毎日毎夜すこしの絶間たえまなく黒いけぶりを吐いてなみを切って進んで行く。すさまじい音である。けれどもどこへ行くんだか分らない。ただ波の底から焼火箸やけひばしのような太陽が出る。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
といった工合ぐあいで、呑込むと、焼火箸やけひばし突込つっこむように、咽喉のどを貫いて、ぐいぐいと胃壁を刺して下って行く。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして、しまいには焼火箸やけひばしのようにじゅっといってまた波の底に沈んで行く。そのたんびにあおい波が遠くの向うで、蘇枋すおうの色にき返る。すると船はすさまじい音を立ててそのあとおっかけて行く。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
始終めそめそしていたお島は、どうかすると母親から、小さい手に焼火箸やけひばしを押しつけられたりした。お島は涙の目で、その火箸を見詰めていながら、剛情にもその手を引込めようとはしなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
焼火箸やけひばし咽喉のどもとに差込まれるような感じをさせることであった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「うむ、じゃアありません。そんなことをお言いだと私ゃ金魚をうらみますよ。そして貢さんのお見えなさらない時に、焼火箸やけひばし押着おッつけて、ひどい目に逢わせてやるよ。」
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっとも今夜に限って酒を無暗むやみにのむ。平生なら猪口ちょこに二杯ときめているのを、もう四杯飲んだ。二杯でも随分赤くなるところを倍飲んだのだから顔が焼火箸やけひばしのようにほてって、さも苦しそうだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と調子はおっとり聞こえたが、これを耳にするとひとしく、立二は焼火箸やけひばしんだように突立つッたった。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
安達ヶ原でないしるしには、出刃も焼火箸やけひばしも持っていない、渋団扇しぶうちわで松葉をいぶしていません。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古手拭ふるてぬぐいで、我が鼻を、頸窪ぼんのくぼゆわえたが、美しい女の冷い鼻をつるりとつまみ、じょきりと庖丁でねると、ああ、あつつ焼火箸やけひばしてのひらを貫かれたような、その疼痛いたさに、くらんだ目が、はあ
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
髪の毛をむしられていようが、生爪なまづめをはがれて焼火箸やけひばしで突かれていようが、乳の下を蹴つけられて、呼吸いきの絶えるような事が一日に二度ぐらいずつはきっと有ろうと、暗い処に日の目も見ないで
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とんと打入れる発奮はずみをくッて、腰も据らず、仰向あおむけひっくりかえることがある、ええだらしがない、尻から焼火箸やけひばしを刺通して、畳のへり突立つッたててやろう、転ばない呪禁まじないにと、陰では口汚くののしられて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)