灌漑かんがい)” の例文
日本の稲作いなさく灌漑かんがい様式は、その発達の跡にかんがみて、明らかに四段階に分かれており、しかも現在なおこの四つの型がならび存している。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
灌漑かんがいの便に乏しく、毎年梅雨期に入ると雨水が氾濫はんらんして水害に悩まされている吉良郷の住民のために丘陵の起伏を利用して築いた堤防である。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
それが田畑を灌漑かんがいして、また集って多那川に落ちるその小さな流れであります。ゆるい流れの渚から水へかけて黒い羽根が飛び散っています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この氷河が消失して、従って新疆地方しんきょうちほう灌漑かんがいする川々の水量が少なくなり、そのために土壌どじょうがかわき上がって今のような不毛の地になったらしい。
ロプ・ノールその他 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
身体強健、なおよくくわを執り、もっこにない、旦暮たんぼ灌漑かんがいしてずから楽んでおります。いわゆる老而益壮おいてますますさかんなると申すは、この人のいいでござりましょう。
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
「国道開たく工事」「灌漑かんがい工事」「鉄道敷設」「築港埋立」「新鉱発掘」「開墾」「積取人夫」「にしん取り」——ほとんど、そのどれかを皆はしてきていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
又、淳和天皇の頃、美濃の国守の藤原高房という人があって、安八郡のさる池の堤がこわれて水がたまらず灌漑かんがいの用を果しておらぬのを見て、修築を企てた。
土の中からの話 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
泉はまるで一つの灌漑かんがい水路すいろのようにいきおいよく岩の間からき出ていた。斉田さいたはつくづくかがんでそのくらくなったけ目を見てった。(断層泉だんそうせんだな。)(そうか。)
泉ある家 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一は上祖師ヶ谷で青山あおやま街道かいどうに近く、一は品川へ行く灌漑かんがい用水の流れにうて居た。此等これらは彼がふところよりもちと反別が広過ぎた。最後に見たのが粕谷の地所じしょで、一反五畝余。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あるいはあざけり、あるいはののしり、中にゃ独言ひとりごとを云うのも交って、人を憤り世を呪詛のろった声で、見ろ、見ろ、なんじ等、水源みなもとの秘密を解せず、灌漑かんがいの恩を謝せず、名を知らず
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
折からのひでりで百姓の家族は皆畑に出て灌漑かんがい用水をいちいち汲み上げては田の中に注いでおる。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
広漠ひろびろとした耕地一帯をうるおす、灌漑かんがい用の川だったので、上流からは菜の葉や大根の葉や、藁屑わらくずなどが流れて来ていましたが、どうでしょう、流れて来たそれらの葉や藁屑が
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この一せん灌漑かんがいとしていた川下数十ヵ村の田や畑も、すべて枯死を呈しかけていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この間、満目の耕野に灌漑かんがいの水の流るるあり。田園の少婦踏切りに群立して手を振るあり。林帯小駅に近く、線路工事の小屋がけの点々として落日にきらめくあり。夕餉ゆうげの支度ならん。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
そこへこの溝渠インクラインの水は流れ込んで、そこから幾つかの小川に分れて、開墾地を灌漑かんがいしてるというのですが、その途中にも二里くらいのところに、かなりの混凝土コンクリートの池がもう一つ設けられて
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
象。ひょう。野牛。自然豚ワイルド・ボア鹿しか。土人娘。これらへの鉄砲による突撃。アヌラダプラとポロナルワの旧都における考古学の研究。幾世紀にわたるせいろん人セイロニイズ独特の灌漑かんがい術。旅行記念物ヌメントウの収集。宝石掘り。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
この広大な土地の整理や灌漑かんがい法の計画をたてたのはおれだし、収穫物の管理や貯蔵を立案したのもおれだ、いったいこの竜宮国を運営し、繁栄にみちびくのは誰か、AグループにいるかBグループか
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大堀というのは、村で一番大きな灌漑かんがい用の溜池だった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
溝を引き池を包んで灌漑かんがいの手段を求めるのは、とうてい一家数反の田を作ろうとする者のよくするところではないからである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ポプラの梢を越して、多那川の灌漑かんがい地帯の田や畑地が見え、左寄りに東京から相模へ往来する電車の線路が見え、橋の両岸に町になりかけの人家があつまっております。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
二マイルも離れた川から水路を掘り通して旱魃地かんばつち灌漑かんがいするという大奮闘の光景がこの映画のクライマックスになっているが、このへんの加速度的な編集ぶりはさすがにうまいと思われる。
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この広大な土地の整理や灌漑かんがい法の計画をたてたのはおれだし、収穫物の管理や貯蔵を立案したのもおれだ、いったいこの竜宮国を運営し、繁栄にみちびくのはだれか、AグループにいるかBグループか
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また赤倉の谷から水を導いて村の耕地に灌漑かんがいしたのも、同じ大人の力であったと称して、その驚くべき難土木の跡について、さかさ水の伝説を語っている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ただしこういうのは多くは灌漑かんがいの設備がなく、したがってひでりの年にはかえってまず苦しまなければならぬので、むしろ低湿な沼地を選び、よそでは旱魃かんばつで困るような年を
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)