洋傘パラソル)” の例文
旅商人たびあきうどけば、蝙蝠傘かうもりがさ張替直はりかへなほしもとほる。洋裝やうさうしたぼつちやんのいて、麥藁帽むぎわらばう山腹さんぷくくさつてのぼると、しろ洋傘パラソル婦人ふじんつゞく。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それと見た女は洋傘パラソルを、線路の傍の草の上に、拡げたままソッと置いた。下駄を脱ぎ揃えて、その上にビーズ入りのバッグを静かに載せた。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
中には女の洋傘パラソルを開いたやうな丸味がかつた赤い屋根、青い屋根、または紙てんまりのやうなだんだら屋根の家もあります。
文化村を襲つた子ども (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
底に籠の附いた四季袋に持ち添へ、長押なげしの釘に掛けてあつた洋傘パラソルをも取り下ろして、ツカ/\と歩きかけた。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「ヘエ! そんな言葉あれがあったのかね。じゃ私も八重ちゃんの洋傘パラソルでも盗んでドロンしちゃおうかなア。」
放浪記(初出) (新字新仮名) / 林芙美子(著)
三人みたりで来たるとともに、門前に待ち居し三りょうの車がらがらと引き来るを、老紳士は洋傘パラソルの淑女を顧みて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
行かふ女達の浴衣の派手なのも好ければ、洋傘パラソルの思ひ切りぱつとしてゐるのも好い。朝蔭の凉しい中だけ勉強して、日影が庇に迫つて来る頃からは、盤礴ばんぱくして暮らす。
孤独と法身 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
この歸途かへりに、公園こうゑんしたで、小枝こえだくびをうなだれた、洋傘パラソルたゝんだばかり、バスケツトひとたない、薄色うすいろふくけた、中年ちうねん華奢きやしや西洋婦人せいやうふじんた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その都度に、華やかな洋傘パラソル尖端さきが、大きい、小さいまるや弧を、くうに描いて行くのであった。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
正月の休みなどにはよく洋傘パラソルを日にかゞやかして、停車場からの長い道を帰つて来たが、町の人達、村の人達にも、「それ、Kさんのお嬢さんが通る。美しくならしたなア。」
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
五十余りと見ゆる肥満の紳士は、洋装して、金頭きんがしらのステッキを持ち、二十はたちばかりの淑女は黒綾くろあや洋傘パラソルをかざし、そのあとより五十あまりのおんならしきが信玄袋をさげて従いたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
薄い壁に掛った、黒い洋傘パラソルをじっと見ていると、その洋傘が色んな形に見えて来る。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
日和癖ひよりぐせで、何時なんどきぱら/\とようもれないから、案内者あんないしや同伴つれも、わたしも、各自おの/\蝙蝠傘かうもりがさ……いはゆる洋傘パラソルとはのれないのを——いろくろいのに、もさゝないし、たれはゞかるともなく
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
浪子はうつむきて、つえにしたる海老色えびいろ洋傘パラソルのさきもてしきりに草の根をほじりつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
何でも俗悪な色っぽいものだったそうですが、まだ冬にもならぬのに黒狐の襟巻をして、時計入りの皮の手提げと、濃い空色に白縁を取った洋傘パラソルと紫色のハンカチを持っていたそうです
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
美しいひとは、すっと薄色の洋傘パラソルを閉めた……ヴェールを脱いだように濃い浅黄の影が消える、と露の垂りそうなすずしい目で、同伴つれの男に、ト瞳を注ぎながら舞台を見返す……その様子が
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)