汚染しみ)” の例文
我等は彼等が清く輕くなりて諸〻の星の輪にいたるをえんため、よく彼等を助けて、そのこゝよりもたらせし汚染しみを洗はしむべし 三四—三六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ゆうべおそく泥酔して帰った息子の官服を膝にくりひろげて、泥を払い、ほころびをい、またふと、血らしい汚染しみに老いの目をしばだたいて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つぼのごとく長いはなびらから、濃いむらさきが春を追うて抜け出した後は、残骸なきがらむなしき茶の汚染しみ皺立しわだてて、あるものはぽきりと絶えたうてなのみあらわである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ベッド・カヴァーのあやしげな汚染しみにも、壁にニジリつけた煙草の焼けあとにも、隠そうにも隠せない自堕落な生活のあとが、そのままに残っている。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ことにミジメなのはそのてのひらで、鍬を握っておりますから、よくは見えませぬが、その鍬のの処々に、黒い汚染しみがボツボツとコビリ付て見えましょう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は、一目でその紙質と、群青や、紅や、朱などの汚染しみで、あの肖像畫の覆紙カヴアの切つぱしだと悟つた。彼は、立ち上つて、それを、私の眼に近く出した。
恰度野村の前にある赤インキの大きな汚染しみが、新らしい机だけに、胸が苛々いら/\する程血腥い厭な色に見える。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
白い安西洋紙で張りつめた天井には鼠の尿ででもあるのか、雲形の汚染しみがところどころにできている。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
またある白色黴の菌糸が模様的に平布して汚染しみのように見える、すなわちこれらがその葉の裏面の状態である。詳かに検して見るとなかなか興味のあるものである。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
やがて、そういう葡萄酒もまたこの街路の敷石の上にこぼされる時が、またそれの汚染しみがそこにある多くのものを赤く染める時が、来ることになっていたのである
去歳こぞの春すがもりしたるか怪しき汚染しみは滝の糸を乱して画襖えぶすま李白りはくかしらそそげど、たてつけよければ身の毛たつ程の寒さを透間すきまかこちもせず、かくも安楽にして居るにさえ、うら寂しくおのずからかなしみを知るに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
むね汚染しみ、ひとつえて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
あやしき胸の汚染しみ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
恰度野村の前にある赤インキの大きな汚染しみが、新らしい机だけに、胸が苛々する程血腥ちなまぐさい厭な色に見える。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
所詮しょせんは終生の栄華えいがでもなし、女の不幸にきまっている。ことに心ぐるしいのは死をしている士道の純白にも何か一点の汚染しみがのこるような気がするのだった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこには極めて鮮麗な紫色がかすれたようになって附着しているが、その色が珈琲の汚染しみになった処に這入ると急に流れ拡がって、淡い緑色に流れ出している。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それは人間の声らしい生気ある響をすっかり失っているので、かつては美しかった色彩が色褪せて見る影もない薄ぎたない汚染しみになってしまったような感じを与えるのであった。
むかしの汚染しみが滲みだすかと、たえずハラハラしていなくてはならない。
虹の橋 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
紫の汚染しみとまじらふ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そんなものを一渡り見まわした私は、最後に、右上の端の珈琲の汚染しみの附いていない処に眼を注いだ。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分をささえてくれている人のすそに、血汐らしい汚染しみが点々とあるのに気づいて、初めてこの二人に疑惑を持ちましたが、今さら、その好意にまかせた腕を振り払うこともならず
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分の赤ん坊のもりをしている女のひたいは、自分の頭に再び巻きつけた襤褸布片ぼろぎれ汚染しみで染められた。樽の側板がわいたにがつがつしがみついていた連中は、口の周囲に虎のような汚斑をつけていた。
そのほか極めてうすい雲のような汚染しみの形が処々に見えるが、何の痕跡だか推定出来ない。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小袖についていた血の汚染しみは、はやい瀬の水にうすあぶらをひろげてすぐ消えて行った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妻木君は冷笑あざわらっているらしかったが、その時に私の眼に妙なものが見えた。それは正面の壁にかかっている一本の短かい革製の鞭で、初め私は壁の汚染しみかと思っていたものだった。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
インキの汚染しみのついた診察着が這入はいって来た……が……それはどこかで見た事のある縞ズボンと診察着であった……と思ってチョット眼を閉じて考えたが……間もなく私はハッと気付いた。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
物凄いと形容致しましょうか……その肺臓の一面にあらわれている黒い汚染しみは、この少女が炭坑労働に従事しておった事をあらわし、その致死の直接原因と見られる肝臓の破裂と内出血は
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は書見用の眼鏡をかけて汚染しみだらけの白紙の表紙を一枚めくってみた。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうしてやっと二丈か三丈位ありそうに思われる長い巻物の白いところを、最終の処まで追い詰めて来ると意外にも、黒い汚染しみのようなものがチラリと見えたので、思わずドキンとして眼をみはった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)