毛並けなみ)” の例文
おむつをきらうあかぼうのようだ。仲仕が鞭でしばく。起きあがろうとする馬のもがきはいたましい。毛並けなみに疲労の色がい。
馬地獄 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
毛並けなみもよくちぢれていて上等だ。ちょっと歯を見せろ。歯なみもなかなかりっぱだ。おまいはおれの店の番人になるか。
やどなし犬 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
どうもくさういふ毛並けなみの牛が出来できたものでございますが、牛飼うしかひさんにたづねるとういふ牛はの時にうまれて出るとひました、と京都きやうとの人がまうしました。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
あたかも私の友人の家で純粋セッター種のが生れたので、或る時セッター種の深い長い艶々つやつやした天鵞絨ビロードよりも美くしい毛並けなみと、性質が怜悧りこう敏捷すばしこく
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
同時に彼も何となく口がにくい気もちになって、しばらくは入日いりひの光に煙った河原蓬かわらよもぎの中へたたずみながら、艶々つやつやと水をかぶっている黒馬の毛並けなみを眺めていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし不思議ふしぎなことには、どのうまもどのうまみなたくましい駿馬しゅんめばかりで、毛並けなみみのもじゃもじゃした、イヤにあしばかりふと駄馬だばなどは何処どこにもかけないのでした。
すすきの穂も、一本ずつ銀いろにかがやき、鹿の毛並けなみがことにその日はりっぱでした。
鹿踊りのはじまり (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ほっそりとしたからだ、美しい頭、やわらかな毛並けなみ、うす茶色のくびすじのしま、見たところでは、まるでかわいらしい美人のようですが、これでいて、じつは、ものすごい森の生き物なのです。
黄色い毛並けなみの馬は馬銜はみをかんでつながれてゐる。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
もっと音色ねいろうつくしいわり毛並けなみ案外あんがいつまらないとりで、あるとき不図ふとちかくのえだにとまっているところをると、おほきさは鳩位はとぐらい幾分いくぶん現界げんかいたかて、頚部けいぶながえていました。
すすきのも、一本いつぽんづつぎんいろにかがやき、鹿しか毛並けなみがことにそのはりつぱでした。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
幽界ゆうかいとりでも矢張やはこえ毛並けなみとはそろわぬものかしらと感心かんしんしたことでございました。