残虐ざんぎゃく)” の例文
旧字:殘虐
はて? 残虐ざんぎゃくと利慾よりなにも知らぬ野盗やとうかしらが、なんのつもりで、こうていちょうにするのかと、伊那丸は心ひそかにゆだんをしない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
原爆げんばく残虐ざんぎゃくさが、そのことばとしての意味だけで伝えられてはいたが、まだほんとうの惨状さんじょうを知らされていなかったあの年の八月十五日
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
豹の眼と豹のきばと豹の舌と、それから豹の心を持った獣人なのだ。途方もない漫画まんがである。世にも恐ろしい残虐ざんぎゃくな漫画である。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こう云う残虐ざんぎゃくを極めた悲劇は、何度となくその後繰返された。が、紅い庚申薔薇の花は息苦しい光と熱との中に、毎日美しく咲き狂っていた。——
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まず、目につくのは、鋭い刃物でえぐったような咽喉部いんこうぶの深い傷口——うん、やっぱりさっき口笛が聞えたとき、残虐ざんぎゃくきわまりなき吸血鬼が出たのだ。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あまりのむごたらしさ、想像を絶するこの残虐ざんぎゃくさはどうしたことか、気のたしかな者を呼び集めていてみると、「弥七の娘に狐がいた」ということであった。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
紀州の毬唄まりうたで、隠微な残虐ざんぎゃくの暗示がある。むかし、熊野もうでの山道に行暮れて、古寺に宿を借りた、若い娘が燈心で括って線香で担って、鯰を食べたのではない。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私の黒焦死体の呪咀のろいがどんなに真剣な気持のものですか……私たちのうらみの内容が、どんなに深刻な、残虐ざんぎゃく無道な校長先生のなさり方に対する反抗であるかを
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あさましい「この世」に、いかに侵略や搾取さくしゅ残虐ざんぎゃくや不正が行われても、天国と極楽ごくらくが「あの世」にあると信ずるのである。しかし政治はそういうものではない。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
侵略、残虐ざんぎゃく、殺人、圧制、強奪——地上の罪禍を悉く背負って、日本は世界一の悪者となり、この自覚において再生の道を求めるがいい。こうした不逞ふていの決意を僕は欲する。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
正気づいてから聞きただすと、大きな男が無理やりに娘をそこに連れて行って残虐ざんぎゃくを極めたはずかしめかたをしたのだとわかった。笠井は広岡の名をいってしたり顔に小首を傾けた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
兎の目を宿さぬ以前から、猟夫の残虐ざんぎゃくな性質に就いては聞いて知っていたのである。
女人訓戒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この残虐ざんぎゃくの歴史は、やがて、家族の夜伽よとぎを通じ、昔噺むかしばなしさながらの興をそえることになるのだが、ルピック夫人が、ここでその説明をしている間、にんじんは眠り、そして夢を見ているのだ——
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
屍体の下半身は、酸鼻さんびとも残虐ざんぎゃくともいいようのない、まるで猛獣が獲物の小動物を食い散らした跡のような、眼も当てられない暴状ぼうじょうを呈していた。体の下腹部に被害者のスカートが掛けてあった。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
その人間の心で、虎としてのおのれ残虐ざんぎゃくおこないのあとを見、己の運命をふりかえる時が、最も情なく、恐しく、いきどおろしい。しかし、その、人間にかえる数時間も、日を経るに従って次第に短くなって行く。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
昔の法令には如何いかにも残虐ざんぎゃくなものが多かったようである。
銭形平次打明け話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
たださえ兇暴きょうぼう野武士のぶしが焼けだされてきた日には、どんな残虐ざんぎゃくをほしいままにするかも知れないと、家をざして村中恐怖きょうふにおののいている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし仙太がいずれその内にしゃべるのを恐れたカンカン寅は、残虐ざんぎゃくにも仙太に報酬ほうしゅうをやるといって呼び出した。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
神谷芳雄が、かつてなにびとも経験しなかったような、奇怪残虐ざんぎゃくな恋人の最期さいごを、マザマザと見せつけられた、あののろうべき日から、一年あまりが過ぎ去った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は自分がこれほどむごたらしい男だとは思わなかった。どうして残虐ざんぎゃくな気持があとからあとから湧きだして、彼に露骨ろこつな言葉を吐かしたかが怪しまれだした。俺は悪党だ。俺は悪人だ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この上もなく残虐ざんぎゃくで陰惨です。
残虐ざんぎゃくをものともしない天下の弓取りたちは、この一粒の胚子をすら、をださせまいとして前途に、あらゆる毒手をふるってくるにちがいない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一つの方は犯罪者型とでもうか、犯罪ばかりに興味を持ち、仮令たとえ推理的な探偵小説を書くにしても、犯人の残虐ざんぎゃくな心理を思うさま書かないでは満足しない様な作家であるし
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ある残虐ざんぎゃくな心さえきざしていた。けれどもおぬいさんと面と向って、その清々すがすがしい心の動きと、白露はくろのような姿とに接すると、それを微塵みじんに打ち壊そうとあせる自分の焦躁が恐ろしくさえあった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかも、その兇行がまた残虐ざんぎゃくだった。ひとたび毒酒に酔わされると、生きてその屋の軒を出た者はない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たった一人のために数十人を殺戮さつりくするという、残虐ざんぎゃくと滑稽のまじりあったふしぎな味。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
首の次には手が、足が、想像もつかない残虐ざんぎゃくさで、次々と引きちぎられて行った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小六は意外な恋仇に出し抜かれて、聞くより嫉妬にあおられた残虐ざんぎゃくな相を現わし
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)