歩調あしどり)” の例文
豌豆いろの長袗カフターンの胸へ片手を突込んで、のつしのつしと歩調あしどりも重々しく部屋を歩きまはりながら、婆さんの話の腰を折りをつたのぢや。
あたかも病みあがりのロイマチス患者のごとき蹌踉そうろうたる歩調あしどりで、大道狭しと漫歩しているのは、まことに荘重類ない眺めであった。
彼女は覚束ない歩調あしどりで歩いて行ったが、呼吸いき切れがするのと、頭がふらふらするので、時々じっと立ち止まらねばならなかった。
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
通る人も通る人も皆歩調あしどりをゆるめて、日当りを選んで、秋蠅の力無く歩んで居る。下宿屋は二階中をあけひろげて蚊帳かや蒲団ふとんを乾して居る。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
健は、いつもの様に亭乎すらりとした体を少し反身そりみに、確乎しつかりした歩調あしどりで歩いて、行き合ふ児女等こどもらの会釈に微笑みながらも、始終思慮かんがへ深い眼付をして
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
冬木刑事の同僚で先輩である沖田おきた刑事はまるで元気のない歩調あしどりで、半蔵門はんぞうもんから三宅坂みやけざかのほうへ向いて寒い風に吹かれながら濠端ほりばたをとぼとぼと歩いていた。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
私もそれは同じ想だ。泣出しそうなかおをして、バタバタと駆出し、声の聞えない処まで来て、漸くホッとして、普通なみ歩調あしどりになる、そうしていつも心のうち反覆くりかえし反覆し此様こんな事を思う
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
前の方の四五人は、甲高い富江の笑声を囲んで一団ひとかたまりになつた。町帰りの酔漢よひどれが、何やら呟き乍ら蹣跚よろよろとした歩調あしどりで行き過ぎた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして決然たる歩調あしどりで娘たちの群れに追ひつくと、彼はオクサーナと肩をならべて、きつぱりした口調で言つた。
と、独語しながら、心残り気に幾度も噴水の鶴の方を見かえりながら、悠々たる歩調あしどりで花壇の方へ歩み去った。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
モッフが重い歩調あしどりで波止場の方へ帰ってゆくと、ガルールはあわただしく場末の汚い街へ姿を消した。
一隊の健兒は、春の曉の鐘の樣な冴え/″\した聲を張り上げて歌ひつゞけ乍ら、勇ましい歩調あしどりで、先づ廣い控處の中央に大きい圓を描いた。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
おつかなびつくりの歩調あしどりで、床ではなく、昨夜あの祭司の息子が真逆様にころげ落ちた、くだんの板の取りつけられた天井や、壺の並べてある棚を眼下に見おろしながら
或る者は真黒な喪服をすっぽりとかついで、悄然と力ない歩調あしどりをしているかと思うと、一方には華やかに着かざって、饒舌おしゃべりをしたり高笑いをしたりしながらやって来る者もある。
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
浪は相不変、活動写真の舞踏ダンス歩調あしどりで、かさなり重り沖から寄せて来ては、雪の舌を銀の歯車の様にグルグルと捲いて、ザザーツと怒鳴り散らして颯と退く。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やがて順番が来ると、彼女はふらふらする歩調あしどりで、法廷の証人席へ入って行ったが、暗い控室から急に明るみへ出たので、眼をパチクリさせながらも、すぐに被告席にいるわが子の姿を認めた。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
薄笑うすわらひをして俯向き乍ら歩いて來る彼は、軈て覺束なき歩調あしどりを進めて、白狐龕の前まで來た。そしてはたと足を止めた。同時に『ウッ』と聲を洩して、ヒョロ高い身體からだを中腰にした。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
薄笑をして俯向き乍ら歩いてくる彼は、やがて覚束なき歩調あしどりを進めて、白狐龕の前まで来た。そして、はたと足を止めた。同時に『ウツ』と声を洩して、ヒヨロ高い身体を中腰にした。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
日比谷公園を出て少許すこし來ると、十間許り前を暢然ゆつたりとした歩調あしどりで二人連の男女が歩いてゐる。餘り若い人達ではないらしいが何方も立派な洋裝で、肩と肩を擦合して行くではないか、畜生奴!
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
活動寫眞で見る舞踏ダンス歩調あしどりの樣に追ひ越されたり、追越したり、段々近づいて來て、今にも我が身を洗ふかと思へば、牛の背に似た碧の小山のいただきが、ツイと一列ひとつらの皺を作つて、眞白の雪の舌が出る。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
活動写真で見る舞踏ダンス歩調あしどりの様に追ひ越されたり、追越したり、段々近づいて来て、今にも我が身を洗ふかと思へば、牛の背に似たみどりの小山の頂が、ツイと一列ひとつらの皺を作ツて、真白の雪の舌が出る。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
鈍い歩調あしどりで二三十歩、俛首うなだれて歩いて居たが、四角よつかどを右に曲つて、振顧ふりかへつてモウ社が見えない所に來ると、渠は遽かに顏を上げて、融けかかつたザクザクの雪を蹴散し乍ら、勢ひよく足を急がせて
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
チョイとうづを卷いて、忽ち海風に散つてゆく、浪は相不變あひかわらず、活動寫眞の舞踊ダンス歩調あしどりで、かさなり重り沖から寄せて來ては、雪の舌を銀の齒車の樣にグルグルと卷いて、ザザーッと鳴り散らして颯と退
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
鈍い歩調あしどりで二三十歩、俛首うなだれて歩いて居たが、四角よつかどを右に曲つて、振顧ふりかへつてもモウ社が見えない所に来ると、渠はにはかに顔を上げて、融けかかつたザクザクの雪を蹴散し乍ら、勢ひよく足を急がせて
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
町歸りの醉漢よひどれが、何やらつぶやき乍ら蹣跚よろ/\とした歩調あしどりで行き過ぎた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)