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此邊
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このあたり
北八大丈夫だ、と
立直つて
悠然となる。
此邊小ぢんまりとしたる
商賣の
軒ならび、しもたやと
見るは、
産婆、
人相見、お
手紙したゝめ
處なり。
バルタ (傍を向きて)あゝは
言はせられるが、ま、
此邊にかくれてゐよう。お
顏の
色も
心懸り、お
心の
中も
疑はしい。
番甲
此邊は
血だらけぢゃ。
墓場の
界隈を
探さっしゃい。さゝ、
見つけ
次第に、かまうたことは
無い、
引立てめさ。
蒸暑いのが
續くと、
蟋蟀の
聲が
待遠い。……
此邊では、
毎年、
春秋社の
眞向うの
石垣が
一番早い。
震災前までは、
大がい
土用の
三日四日めの
宵から
鳴きはじめたのが、
年々、やゝおくれる。
其方法ぢゃが……おゝ、
害心よ、ても
速う
入って
來をるなア、
絶望した
者の
胸へは!……
思ひ
出すは
彼藥種屋……たしか
此邊に
住んでゐる
筈……いつぞや
見た
折は、
身に
襤褸を
着て