木片きぎれ)” の例文
「おい、なんでもいいから、護身用になる木片きぎれでもナイフでも用意しろ。貝谷は銃を大切にしろ。銃は一挺しかないんだからな」
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
コンドツチイ街(ヰヤ、コンドツチイ)の角を過ぐれば、むかしながらのペツポが手にあしだまがひの木片きぎれを裝ひて、道の傍に坐せるを見る。
そういう祖父は器用なたちで、私のために木片きぎれに船を彫ったり、また竹細工に渋紙を張ったりして飛行機の模型などを造ってくれたりした。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
この卓上電話は見た所はどうもないが、僕は貴様が窓の所に行ったすきに、この受話器を掛ける所に、ちょっとした木片きぎれをかっておいたのだ。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ところどころの巌角いわかどに波くだけ散る。秋。成経浜辺はまべに立って海のかなたを見ている。康頼岩の上に腰をおろして木片きぎれにて卒都婆そとばをつくっている。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
彼はそれよりも木片きぎれの方が好きだ。木片は二本あって、上下に交り合っている。彼がぴょんぴょん跳んでいるのを見ると、私は胸が悪くなる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それほど、この男の悪を憎む心は、老婆の床に挿した松の木片きぎれのように、勢いよく燃え上り出していたのである。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
がんりきは燃えさしの木片きぎれ松明たいまつのようにして本堂の方へ行ってみる、畳の破れへ足がひっかかって転びそうになった途端に、代用の松明が消えかかる。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
笠は吹きさらわれるずぶれにはなる、おまけに木片きぎれが飛んで来て額にぶつかりくさったぞ、いい面の皮とはおれがこと、さあさあ一所に来てくれ来てくれ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雨降がつづいて、木片きぎれ鋸屑おがくずの散らかった土間のじめじめしているようなその店へ、二人は移りこんで行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
沢庵たくあんかじつて、紙と木片きぎれとで出来上つた家に住んでゐる日本人などと比べ物にはならないといふので、日本人が滅多に手も着けない飛切とびきりの上等品を買込むが
ネルロの詫言わびごとに耳をも貸さず、家賃や地代が払えないなら、その代り小屋にあるものは、鍋から釜から、木片きぎれ一つ、石塊いしくれ一つに至るまで、すっかりおいて明日限り立ち退けと
いけはたやなぎの木の下にうずくまって、落ちた木片きぎれで地に何か字を書きながら、伊藤は続けた。
そこにうごめいている影——作爺さんは、チョビ安の出現と同時に、何かひどく狼狽して、今まで削っていた小さな木片きぎれを手早く押入れへほうりこみ、ぴっしゃり唐紙をしめきって
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私のお願いいたしますのは、私の亭主の名前を書きました小さな石か木片きぎれを一つ、亭主の寝ております場所がわかりますように、その上に置かせていただきたいということでございます。
木片きぎれ砂埃すなぼこりなどの散乱した中に、患者はベッドもなく、幕の上に毛布を敷いた応急の病床に、ところ狭くよこたわり、その枕元に附添人、看護婦などがうずくまるという有様、電燈線は切断され
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それで最初さいしよ今日こんにちさるなどとおなじく、たゞそのあたりにある木片きぎれだとか石塊いしころだとかをもつて、あなつてむしをとつたり、あるひはをわつてふといふような生活せいかつをしてゐたのでありませう。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
一方の川のはしは材木の置場である、何でも人の噂によると、その当時取払とりはらいになった、伝馬町でんまちょうの牢屋敷の木口きくち此処ここへ持って来たとの事で、中には血痕のある木片きぎれなども見た人があるとのはなしであった
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
藁か腐つた木片きぎれかなんぞのやうに扱つてやらうと思ふのです。
落ちていた四角い木片きぎれで潜戸の穴をふさいだ。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
古い木片きぎれで乾杯をする
その老婆は、右の手に火をともした松の木片きぎれを持って、その死骸の一つの顔を覗きこむように眺めていた。髪の毛の長い所を見ると、多分女の死骸であろう。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お島はのろくさいその居眠姿がしゃくにさわって来ると、そこにあった大きな型定規のような木片きぎれを取って、縮毛ちぢれげのいじいじした小野田の頭顱あたまなげつけないではいられなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
皆は木片きぎれのやうに黙つて衝立つゝたつてゐたが、暫くすると、仲間の一人がリンカンに言つた。
樹の生茂おいしげった中を歩いていたら、わたしの長靴は泥の塊りで重くなった。私はそれを取りのけようと思った。わたしは、森の中でひとかけの木片きぎれ見出みいだすことが、どんなにむつかしいかを知った。
富豪かねもちかぶりらうとしたが、頭が木片きぎれででもこさへてあるやうに重かつた。