普通あたりまへ)” の例文
『僕は貴女に然う言はれると、心苦しいです。誰だつての際の場処に居たら、那麽あれ位の事をするのは普通あたりまへぢやありませんか?』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
男蛙をとこかへるはしみじみとそのながめて、なあんだ、どんなにえらやつがうまれるかとおもつたら、やつぱり普通あたりまへかへるかと、ぶつぶつ愚痴ぐちをこぼしました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
生れて唯の一度も運を掴んだ事のない掌面だけに、指も普通あたりまへよりはずつと短かつたので、虱は直ぐと指先にのぼりきつた。
「默つて入つて來るんですもの……。」と、やがて、自分の吃驚した言ひ譯して、「何處か加減が惡いの?」と、兄の目顏の普通あたりまへでないのを氣遣つた。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
まがかたなく其處そこには、普通あたりまへはなよりも獅子しゝぱな酷似そつくりの、ひどくそッくりかへつたはながありました、また其眼そのめ赤子あかごにしては非常ひじようちひさすぎました、まつたあいちやんは
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
かほどころか普通あたりまへあつさむいも滿足まんぞくにはおつしやらず、必竟ひつきようあのかたなればこそおはらもたてずにもけず可愛かわいがつてくださるものヽ、だい天道てんたうさまのばちあたらずにはりませぬ
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まだこれで普通あたりまへな人の身体からだなんです……唯、時々熱が出ますもんですから、どうもそれが不思議だつて、懇意な医者に言はれまして、初めて自分でも気が着いたんです……早く今のうちに癒せ
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
家にも二人まで下男がゐたし、隣近所の助勢すけても多いのだから、父は普通あたりまへなら囲炉裏の横座に坐つてゐて可いのだけれど、「俺は稼ぐのが何よりのたのしみだ。」
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「しかし、こんなことは滅多にあるまいが、兔に角今年中には嫁を取らせて、別家させて、自分の仕末は自分でやらせることにしたら、ちつとは普通あたりまへになるだらう。」
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
先生は御自分の一心で是非由松を普通あたりまへの小供にすると言つて、暇さへあればその由松を膝の間に坐らせて、(先生は腰かけて、)上からじつと見下しながら
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
帶の間から引張り出して、二本指で、一寸ちよいと隅の所をひねると、楊枝入の口へ楊枝が扇形に頭を並べて出すんださうだ。其楊枝が君、普通あたりまへの奴より二倍位長いさうだぜ。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
帯の間から引張り出して、二本指で、一寸ちよいと隅の所を拈ると、楊枝入の口へ楊枝が扇形に頭を並べて出すんださうだ。其楊枝が君、普通あたりまへの奴より二倍位長いさうだぜ。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
出來てから漸々やう/\半年位にしかならず、社も裏長屋みたいな所で、給料の支拂が何時でも翌月になるとか云ふ噂、職工共の紛擾ごた/\が珍しくなく、普通あたりまへの四頁の新聞だけれど
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
『日向さん!』と吉野は重々しい調子で呼んだ。『僕は貴女にう言はれると、心苦しいです。誰だつてあの際あの場處に居たら、あれ位の事をするのは普通あたりまへぢやありませんか?』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
給料の支払が何日いつでも翌月になるとか云ふ噂、職工共の紛擾ごたごたが珍しくなく、普通あたりまへの四頁の新聞だけれど、広告が少くて第四面に空所あきが多く、活字が足らなくて仮名許り沢山使ふから
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
相応に物事を判断してもゐれば、その行ふ事、言ふ事に時々利害の観念が閃めく。師範学校を卒業した二十三の女であれば、それが普通あたりまへなのかも知れないが、甲田は時々不思議に思ふ。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)