昼中ひるなか)” の例文
旧字:晝中
いかほど機会を待っても昼中ひるなかはどうしても不便である事をわずかに悟り得たのであるが、すると、今度はもう学校へは遅くなった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
されば、山屋敷の内部では、仲間ちゅうげんやこんな娘までが、同心の目を盗んで、昼中ひるなか牡丹ぼたん畑の霜よけにかくれて、甘い恋など囁こうというものでしょう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前途ゆくてはるかに、ちら/\と燃え行く炎が、けぶりならず白いしぶきを飛ばしたのは、駕籠屋かごや打振うちふ昼中ひるなか松明たいまつであつた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
半分というと妙に聞えるが、昼中ひるなかは自分の家の田畑や網代あじろで働き、休息の時間のみを嫁の家に送るのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
昼中ひるなか働いている間ほとんど無意識にいかなることにもっとも心を寄せていたか、かえって夜中に結ぶ夢によりて解きうるであろう。佐藤さとうさいの『言志耋録げんしてつろく』に
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
松茸は昼中ひるなか採った物より朝早くまだ草の露のある内に採ったのが味もよし匂いも高いとしてあります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ある花曇りの日の昼中ひるなかだったかと存じますが、何か用足しに出ました帰りに、神泉苑しんせんえんの外を通りかかりますと、あすこの築土ついじを前にして、揉烏帽子もみえぼしやら、立烏帽子たてえぼしやら
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まちを出たのはまだあかるい昼中ひるなかでしたが、日のみじかいふゆのことですから、まだ半分はんぶんないうちに日がれかけてきました。むらはいるまでには山を一つさなければなりません。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
何故なぜと申しまするのに、貴方の下すったお手紙はわたしの心のうちを光明と熱とで満したようで、わたしはあれを頂く頃は昼中ひるなかも夢を見ているように、うろうろしておりましたが
「江戸者らしい二人の野郎が、昼中ひるなか女が欲しそうに、露路をキョロキョロあさっていたから、引っ張り込んで奥へ寝かし、お金とお由とをあてがったところ、厭だの違うのとかすじゃアないか……」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いかほど機会を待つても昼中ひるなかはどうしても不便である事をわづかにさとり得たのであるが、すると、今度はもう学校へはおそくなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
昼中ひるなかにお月様でも見つけたような声を出したので、ひょいとそのほうを見ると、なるほど、去年の春から夏の初め頃は、甲比丹かぴたんの三次とともに、この界隈かいわいによく姿を見せた孫兵衛が
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昼中ひるなかでも道行く人は途絶えがちで、たまたま走り過る乗合自動車には女車掌が眠そうな顔をして腰をかけている。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
冬も、昼中ひるなかは暖かかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古池には早くも昼中ひるなかかわずの声が聞えて、去年のままなる枯草は水にひたされてくさっている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
古池ふるいけには早くも昼中ひるなかかはづこゑきこえて、去年のまゝなる枯草かれくさは水にひたされてくさつてる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
始めて引越して来たころには、近処の崖下がけしたには、茅葺かやぶき屋根の家が残っていて、昼中ひるなかにわとりが鳴いていたほどであったから、鐘のも今日よりは、もっと度々聞えていたはずである。
鐘の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)