春日はるび)” の例文
ひんよしとよろこぶひとありけり十九といへど深窓しんそうそだちは室咲むろざきもおなじことかぜらねど松風まつ ぜひゞきはかよ瓜琴つまごとのしらべになが春日はるび
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
門松かどまつ注目飾しめかざりはすでに取り払われて正月もや十日となったが、うららかな春日はるびは一流れの雲も見えぬ深き空より四海天下を一度に照らして
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「飛ぶ鳥のアスカ」「春日はるびのカスガ」などがそれで、枕言葉をそのままに「春日はるび」と書いてカスガと読み、「飛鳥とぶとり」と書いてアスカと読む類これである。
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
ふと、生垣をのぞいたあかるい綺麗な色がある。外の春日はるびが、うららかに垣の破目やれめへ映って、娘が覗くように、千代紙で招くのは、菜の花にまじ紫雲英げんげである。……
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うらうらにれる春日はるび雲雀ひばりあがりこころかなしもひとりしおもへば 〔巻十九・四二九二〕 大伴家持
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
花咲けども春日はるびうららかなるを知らず、楽来たのしみきたれども打背うちそむきてよろこぶを知らず、道あれどもむを知らず、善あれどもくみするを知らず、さいはひあれども招くを知らず、恵あれどもくるを知らず
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかもあの平太夫へいだゆうが、なぜか堀川の御屋形のものをかたきのように憎みまして、その時も梨の花に、うらうらと春日はるびにおっている築地ついじの上から白髪頭しらがあたまあらわして、檜皮ひわだ狩衣かりぎぬの袖をまくりながら
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
髯と梅の杖は、町の春日はるびを肩にあびて、あやうげもなく人なかへまぎれてゆく。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この春日はるびのもとに君のことを考へる、小さい名もない墓石よ、墓石よ。
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
春日はるびあまりに樂しくて
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
うららかな春日はるびが丸窓の竹格子たけごうしを黒く染め抜いた様子を見ると、世の中に不思議と云うもののひそむ余地はなさそうだ。神秘は十万億土じゅうまんおくどへ帰って、三途さんずかわ向側むこうがわへ渡ったのだろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ゆたかなる春日はるびかがよふ狂院きやうゐん葦原金次郎あしはらきんじらうつひに老いたり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
主人は椽側へ白毛布しろげっとを敷いて、腹這はらばいになってうららかな春日はるび甲羅こうらを干している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)