昔噺むかしばなし)” の例文
同時に昔噺むかしばなしの絵葉書を発行、当時まだ絵ハガキの少い時代で極彩色の恐ろしく贅沢なもの、これもハガキ趣味のさきがけ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
その名前だけは昔噺むかしばなしのうちに聞いているが、しかし、徹底した怠け者が神に祭られているとは、ここへ来てはじめて聞く。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昔噺むかしばなしで行くと、どん粟と蜂と臼ぢやないか、——念入りにたくらんだな。畜生、人をめた野郎だ。行つて見よう、八」
これ実に破天荒はてんこうの卓識といわざるを得ず。しかれども彼の卓識も、桃太郎鬼が島征伐せいばつ昔噺むかしばなしの如く、何人なんぴと真面目まじめにこれを聞くものなきぞ遺憾なる。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
あの昔噺むかしばなし事実じじつそのままでないことはもうすまでもなけれど、さりとてまった跡方あとかたもないというのではありませぬ。
だから、私がこれから一つの昔噺むかしばなしをつけ加えても、現代に通じていないことはない。農村は昔のままだ。それは土が昔のままで、その土を所有しているからである。
土の中からの話 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
低い砂丘のその松原は予想外に閑寂かんじゃくであった。松ヶ根のはぎむら、孟宗もうそうの影の映った萱家かややの黄いろい荒壁、はたの音、いかにも昔噺むかしばなしの中のひなびた村の日ざかりであった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
子供こどもたちは、この昔噺むかしばなしを、おじいさんや、おばあさんからいたことがなかったでしょうか? 子供こどもたちがあそぶ、砂山すなやましたには、なみが、いわせてくだけています。
はまねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
この分にては小生が小供こどもの時きき候と同じ昔噺むかしばなしを貞坊が聞き候ことも遠かるまじと思われ候、これを思えば悲しいともうれしいとも申しようなき感これありこれ必ず悲喜両方と存じ候
初孫 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
第一私の目的が、数千年前に生きていた沙漠の住民の羅布ロブ人が国家の滅びるその際に隠匿したという大財宝を、発見しようというのですから既に立派な昔噺むかしばなし式で伝説的でもあるのです。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この残虐ざんぎゃくの歴史は、やがて、家族の夜伽よとぎを通じ、昔噺むかしばなしさながらの興をそえることになるのだが、ルピック夫人が、ここでその説明をしている間、にんじんは眠り、そして夢を見ているのだ——
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
祖父から子供のをり冬の炉辺のつれ/″\に聞かされた妖怪変化えうくわいへんげに富んだ数々の昔噺むかしばなしを、一寸法師の桶屋をけやつち馬盥ばだらひたゝいてゐると箍が切れね飛ばされて天に上り雷さまの太鼓叩きに雇はれ
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
一とくさり昔噺むかしばなしをさせて貰ふことにする。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
取り食ふなどは昔噺むかしばなしの草双紙などには有る事にて、三歳の小児も今の世には信ぜざることなり、其鬼は青鬼か赤鬼か、犢鼻褌ふんどしは古きや新しきやなど嘲り戯れつつ……
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人の家に行きたる家が己が家なり。故にその家の先祖は己が先祖なり。ゆるがせにする事なかれ。また先祖の行状功績等をもくわしく心得置き、子供らへ昔噺むかしばなしの如くはなし聞かすべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
真先まっさきにわたくしがおたずねしたのは浦島太郎うらしまたろう昔噺むかしばなしのことでございました。——
ストコフスキーのアメリカにおける人気の盛んなことは、たまたま以て『オーケストラの少女』が示す通りで、この人の指揮棒は、ほとんど昔噺むかしばなしのフェアリーの魔法の棒のように思われている。
この海岸かいがんむらに、つぎのような、昔噺むかしばなしつたわっていたためです。
はまねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
昔噺むかしばなしの主人公と違って、柿の実や、握飯の一つや二つで買収される男ではないにきまっているが、つまりお雪ちゃんは、この機会に於て、このあたり静かな、そうして
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)