提灯ぢょうちん)” の例文
旧字:提燈
このようなことを言っているところへ、初やが狐饅頭きつねまんじゅうを買って帰ってくる。小提灯ぢょうちんを消すと、蝋燭ろうそくから白い煙がふわふわとあがる。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
正吉は本所御蔵の堀へ抜け、小泉町の方へ引返して両国へ出ようとした、然し表通りへ出る前に、行手を御用提灯ぢょうちんさえぎられた。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ちょうど、下に置いてあった屑屋のがんどう提灯ぢょうちんを、がんりきの百が手にとって、その異形いぎょうの者にさしつける途端
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それが漸次しだいちかづくと、女の背におぶはれた三歳みっつばかりの小供が、竹のを付けた白張しらはりのぶら提灯ぢょうちんを持つてゐるのだ。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「こいつを返しゃ、俺たちの根城ねじろが分る、すぐ御用提灯ぢょうちんの鈴なりで、逆襲さかよせのくるのは知れている。兄貴、早くってしまわねえととんだことになるぜ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
往来のむこうで道を照して行く人の小提灯ぢょうちんが、積った雪に映りまして、その光が花やかに明く見えるばかり。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
麹町の三丁目で、ぶら提灯ぢょうちんと大きな白木綿しろもめん風呂敷包ふろしきづつみを持ち、ねんねこ半纏ばんてん赤児あかごおぶった四十ばかりの醜い女房と、ベエスボオルの道具を携えた少年が二人乗った。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
抜いた刀を肩にかつぎ、ヒラリと庭へ躍り出たが、見れば庭園にわの四方八方ありの這い出る隙間もなく鎧武者よろいむしゃヒシヒシと取り囲み、高張り提灯ぢょうちん松火まつ篝火かがりび、真昼の如くえ光り
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その逃げ迷っている群集の足下に「吉原町」と一パイに書いた手提灯ぢょうちんが転っているのを、後から気が付いて冷汗を流した事があるがソレ以来の……イヤ、それ以上の大失敗だ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
僕は例の夜学の帰りに本所ほんじょ警察署の前を通った。警察署の前にはいつもと変わり、高張り提灯ぢょうちんが一対ともしてあった。僕は妙に思いながら、父や母にそのことを話した。が、だれも驚かなかった。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
半蔵門の方より来たりて、いまや堀端ほりばたに曲がらんとするとき、一個の年紀としわかき美人はその同伴つれなる老人の蹣跚まんさんたる酔歩に向かいて注意せり。かれは編み物の手袋をめたる左の手にぶら提灯ぢょうちんを携えたり。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
初鰹はつがつおも過ぎ、時鳥ほととぎすにも耳飽きて、あわせを脱いだ江戸の夏は、涼み提灯ぢょうちんの明りに、大川ばたから色めき立って、日が暮れると一緒に、水へ水へと慕って出る人がおびただしい。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
休ませておいたきねの間を通り、ぬかだらけの棚の板から、携えて来たブラ提灯ぢょうちんをつり下げ、そうして、炉の傍へ寄っておもむろに焚火をはじめて、それが燃え上るところに両手をかざし
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そういいながら、お仙は、治郎吉に解かれた縄をふり払って、物干しから、屋根へ、怖さも忘れて這い出したけれど、裏口はもう真っ赤に染まるほど、御用提灯ぢょうちんうずもっていた。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠目がく——手にがんどう提灯ぢょうちんを持っているところなどは、いよいよ怪しい。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
柵門に常備の六尺がいないので、駆けこんで、波うち際の桟橋さんばしに立ってみると、湖水のような土佐泊とさどまり内海うちうみ、どッぷりと暗い水上いったいに、御用提灯ぢょうちんをふる無数のかんこ船とかんどり船。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「沢井」という字だけが見える手ぶら提灯ぢょうちんをさげていましたが
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
びんの毛が、疾風を切った。彼の足は、草履もはきわすれ、てた大地の冷めたさも痛さも覚えず走りに走っていた。——決して、まだそう遠く離れてはいないはずの、先のブラ提灯ぢょうちんを目あてに追って。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「外にも、いっぱいな捕手の群れと、御用提灯ぢょうちんだ」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軒ならび祭提灯ぢょうちんの灯がそよぐ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)