捕縄とりなわ)” の例文
旧字:捕繩
のめるようにかけだして、きゅっと捕縄とりなわの一端をしごいたが——その時、一人の男、宙を飛んでくるなり弥惣兵衛の腕にしがみついて
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは十手じって捕縄とりなわ功徳くどくでした。どんな物騒な野郎も、お上の御用を勤めているとわかってる八五郎を誘う気遣いはありません。
わたくしのお話はいつでも十手じって捕縄とりなわの世界にきまっていますけれども、こちらの方は領分がひろいから、色々の変った世界のお話を聴かせてくれますよ。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と言って、送りの客を顧みましたが、この時、提灯は抛り出してしまって、懐ろへ手を差し入れたのは、火打道具を取り出さんがためではありません——一張の捕縄とりなわです。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と調子に乗って声高こわだかに談判するを、先刻せんこくより軒前のきさき空合そらあいを眺めて居りました二人の夜店商人あきんどが、互いに顔を見合わせ、うなずきあい、懐中から捕縄とりなわを取出すや否や、格子戸をがらりっと明けて
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
捕縄とりなわの掛け方なら、私に及ぶ者は常陸下総上総かずさにも有りますまい」
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
今村の両手はいつのまにか捕縄とりなわでかたく縛られていた。
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
と袖から蛇の首のように捕縄とりなわをのぞかせた。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、波越は腕につかんでいる捕縄とりなわを、わなわなと見せて、口惜しそうに、叩きつけた。男泣きに泣くように、顔の筋をふるわした。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、娘の閉じた口を開かせることは、平次の知恵でも、十手捕縄とりなわでも出来ることではありません。
捕縄とりなわに物を言わせる凄味すごみの相手であることは、つい今頃、送られる身になって、ぴーんと来ていない限りはないのだが、草津の駅でがんりきをとがめたように、頭ごなしに咎められない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ツ、ツ、ツッ……」と、のど捕縄とりなわをつかみながら、孫兵衛だけは、つるを張られた弓のなりに、そこへ、食いとめられてしまった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さア、それがわかれば、私も十手じって捕縄とりなわを預かるが、——近頃は暮しも楽ではないから」
大極流の兵法には、棒も、剣も、槍も、拳法も、捕縄とりなわも、忍びの術までが、みな一つ体系に摂取されてあるということと、支那の武術との関聯を、兵馬は耳新しく聞いていると、村田が
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
海蛇かいだのごとき一本の捕縄とりなわが、とつ! あるまじき渦潮の中からおどりだして、をつかんでいる周馬の首へピューッ、水を切って巻きついた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叩き起された平次は、はなはだもって不服そうです。横着おうちゃくをきめているようですが、実は十手捕縄とりなわを預かっている八五郎に、たまにはひとり立ちの仕事をさせてみたかったのでしょう。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そして二人が切り結んでいるていを見るや、彼はなんの猶予ゆうよもなく、得意の捕縄とりなわをスルスルと解いて、天堂一角へ狙いをつけた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言え。金持の用心棒になるくらいなら、俺は十手じって捕縄とりなわを返上して、女房に駄菓子でも売らせるよ。向島へ誘い出そうというのも佐渡屋に誘われたのじゃないか。あすこには結構な寮がある筈だが
られた捕縄とりなわを、舌うちしながら、キリキリ手元へ巻き込んで、崖ぎわから、削り立った急勾配きゅうこうばいを、残念そうにのぞいていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あっしはもう十手じって捕縄とりなわを返上してしまいますよ、親分」
と、投げ上げた二丈の捕縄とりなわは、崖の上へ這い上がりかけた曲者の首すじへからみついた。旋回した分銅ふんどうは、彼の首から、胴なかを、蛇のように巻いた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、眼八の十手が、風を切って入るのと同時に、飛んできた捕縄とりなわが、拝み打ちに下ろしたかれの手元をさらって、ガラリと刃物を巻き落してしまった。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、起きかえって、側を離れてくると、その手と源次の間に、いつのまにかタランと、捕縄とりなわがつながれている。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手拭でふくれている懐中ふところも、人一倍長い捕縄とりなわの束でアアなっているのだろうとこわがられている手先である。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
方円流ほうえんりゅう二丈の捕縄とりなわが、今に、てめえの喉首のどくびをお見舞い申して、その五体を俵ぐくりに締めあげるぞ。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうだ、ましてや杢之進の持つ弄具おもちゃ同様な十手や捕縄とりなわで、そのあふれる力がせき切れるものか! ……
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老いたりといえど、塙江漢、対手あいてが、あらわに姿を見せて参れば、方円流二丈の捕縄とりなわは、このたもとから走って飛ぶ——。まさか、悪魔の首領も、そんな愚か者ではあるまい。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
辛くも投げた人助けの捕縄とりなわで、ほのおの底から救い上げたお千絵様であろう——右手には、浄瑠璃じょうるり人形のように、ダラリとなった女の体を抱き、左に、お綱の帯をつかんだ——。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飛んだのは万吉が、絶えて久しぶりに腕っかぎり試みた、方円流ほうえんりゅう二丈の捕縄とりなわ
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そっちは捕縄とりなわを持つ渡世とせい、私は裏の闇に棲む人間だけれど、思案に余っていることがあるんだから、渡世を捨てて会ってくれる訳には行きませんか。そういうこの私の家は本郷妻恋つまごい一丁目——
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一に弓、二につよゆみ、三にやり、四に刀、五に剣、六に鍵矛かぎほこ、七にたて、八におの、九にまさかり、十にげき、十一に鉄鞭てつべん、十二に陣簡じんのたて、十三に棒、十四に分銅鎌ふんどうがま、十五に熊手くまで、十六に刺叉さすまた、十七に捕縄とりなわ、十八に白打くみうち
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしておおかみい物へとびつくかのように、覆面の者どもが一せいにそのなかへゾロゾロはいると、たちまち鉄砲てっぽう鉄弓てっきゅうやり捕縄とりなわなど、おもいおもいな得物えものをえらび、丹羽昌仙にわしょうせん指揮しきにみちびかれて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)