すげ)” の例文
寺では少しく迷惑らしいようであったが、相手が相手であるからすげなく断わるわけにも行かないので、結局承知して吉五郎を帰した。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
伊「いゝとこがありますぜ、東京こちらから遠くはありませんがね、わしが行って頼んだらすげなくも断るまいと思うんで、あれなら大丈夫だろう」
それかと云つて、自分の恋人の父を、すげなく返す気にもなれなかつた。彼女が躊躇してゐるのを見ると、子爵は不審いぶかしさうに訊いた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そうして、前年とおなじように彼女は飽きあきするような歎願をくりかえし、私もまた例のごとくにすげない返事をした。
ちょいとことづける事があるのだから、折角見えたものをすげなく追帰すのも、お気の毒だと思って、通して上げましたがね、じっとして待っていなさい。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
最後に夫れを望んだは他ならぬ豊臣秀吉であった。然るに宗湛は夫れをさえ、すげなく断わって了ったのである。
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この次どこかへ御飯ごはんでも食べに行こうと誘われれば、その先は何を言われても、そうすげなく振切ってしまうわけにも行かない位の義理合いにはなっている。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私はこういう訳でもう七、八日人に逢わんで実に困って居るからどうか救うて下さいといって事情を明かし、手を合せて拝まぬばかりに頼めば頼むほどすげなく出られて閉口し切ったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ともかくそのMISS・キャゼリンも一骨折らせて欲しい、と頼んでいることであったし、またキャゼリンの関係ならばおそらく大使館でもすげなく拒むようなこともあるまいとは思われるが
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
二十年前すげなく振り捨てた、先妻の衣川暁子も、その劇団と共に迎えてくれたのだし、当時は襁褓むつきの中にいた一人娘も、今日此の頃では久米幡江くめはたえと名乗り、鏘々そうそうたる新劇界の花形となっていた。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それかと云って、自分の恋人の父を、すげなく返す気にもなれなかった。彼女が躊躇ちゅうちょしているのを見ると、子爵は不審いぶかしそうにいた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その御坊がつい一と筆さらさらとはしらするは、なんの雑作もないことでござりましょうに、ならぬとすげのう仰せられまするか。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
カムの女子おんな達はどうも余程すげないようで、愛らしい所はちっともない。チベットの人間は表面うわべは男もおとなしいように見えて居るくらいであるから、女もまたなかなか表面は優しく見えて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
お千代は単刀直入にこう云われては以前の関係からそうすげなくも振切れないので、その日は慶三の来ぬのを幸い妾宅へ案内した。葉山は少し話をして帰りがけに五円札をお祝いにと置いて行った。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ここらに住むものは彰義隊の同情者で、上野から落ちて来たといえば、相当の世話をしてくれると思っていたのに、彼はすげなく断るのである。
夢のお七 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
相手の高田から『大きなお世話だ。』と云うようにすげなく断られると、今度は最後の逃げ道として、帰郷を計画しながら、而も国へ帰ったかと思うと、もう三日振りには、淋しくて堪らなくて
神の如く弱し (新字新仮名) / 菊池寛(著)
其のすげなくもしずかなる眠りぞ憎くき。
近所の人たちに逢ってもすげなく顔をそむけて、今までのようなにこにこした笑い顔を見せなくなった。三味線の音もちっとも聞かせなくなった。
ゆず湯 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おれのところへそんな事を云って来るのは間違っている。神田の近江屋か石坂屋へ行け」と、かれはすげなく跳ねつけた。
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こうしたなまぬるい恋ばなしを好まない頼長も、この美麗な才女に対してあまりにすげない返事も出来ないので、いい加減に取り合わせて言った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
近所の人たちに逢ってもすげなく顔をそむけて、今までのようなにこにこした笑い顔を見せなくなった。三味線の音もちっとも聞かせなくなった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
迂闊に泊めてやって、どんな禍いを招くようなことになるかも知れない。さりとてすげなく断わるにも忍びないので、かれは咄嗟の思案でこう答えた。
それを救われたのは玉藻の情けであることを考えると、千枝太郎もすげなく彼女を突き放すことも出来なくなった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
以前のお葉ならば、「お前がいやだからさ」と、木て鼻をくくったようにすげなく断ったかも知れぬ。が、今はうでない。彼女かれは優しく重太郎の手をった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いいえ。」と、延津弥はすげなく答えた。「二十九日から一度も見えませんよ。」
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この母子おやこが折々に里へ出て物を乞う時、快くこれに与うれば可矣よしすげなく拒んで追い払うと、彼等は黙って笑って温順おとなし立去たちさるが、その家はその夜必ず山𤢖やまわろに襲われて、とりひえかを奪われる。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さすがにすげなく突き放して逃げるわけにもいかないので、玉藻もよいほどにあしらっていると、頼長はいよいよ図に乗って、ほとんど手籠めにも仕兼ねまじいほどのみだらな振舞いに及んだ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あるじはあくまでもすげないのを、外の女は強情に押し返して言った。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なんといってもしんは泣き寄りで、まさかにすげなくも追い返すまい。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十吉があごで招いても、彼女は無言ですげなくかぶりをふった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、安行はすげなく答えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)