御厨子みずし)” の例文
鑁阿寺ばんなじの秘封と聞く、家時公の御厨子みずしの“置文”を、お見せ下さいませぬか。ぜひ高氏に、このさい、披見をおゆるし下されませ」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不浄よけの金襴きんらんきれにくるんだ、たけ三寸ばかり、黒塗くろぬりの小さな御厨子みずしを捧げ出して、袈裟けさを机に折り、その上へ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男はおもむろにへやの四方を看まわした。屏風びょうぶ衝立ついたて御厨子みずし、調度、皆驚くべき奢侈しゃしのものばかりであった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
奥の間から祭壇を持って来て床の中央へ三壇にすえ、神棚から御厨子みずしを下ろし塵を清めて一番高い処へ安置し、御扉をあけて前へ神鏡を立てる。左右にはゆうを掛けた榊台さかきだい一対。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この座敷は板敷いたじき床畳とこだたみを用意してあり、几帳きちょう御厨子みずしなどの部屋の調度のかざりといい、壁代かべしろの絵といい、みんな時代のついた由緒ありそうな品で、とうてい身分のない人の住居ではない。
その美しい朝陽あさひの光が、開け放された窓を通し、室一杯に流れ込んでいたが、床の間に安置された御厨子みずしを照らし、御厨子の中に立たせ給う聖母マリヤとイエス基督キリストとをほのおのように輝かせている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
え朽ちた欄干を越え、異様なかびの匂いやら蜘蛛くもの巣やらを面で払った。そして最も奥の深いところの御厨子みずしの内へかくれこんだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時に、壁のかげの、昼も薄暗い、こうかおりのする尊い御厨子みずしの中に、晃然きらりと輝いたのは、妙見宮みょうけんぐう御手おんてつるぎであつた。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかし沙門しゃもんの人だけに、武士の列には並ばず、本堂の御厨子みずしの前に、しとみの格子戸やたきぎを積んで、仏者らしい火定かじょうのかたちをとって死んだ。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
背後うしろに……たとへば白菊しらぎくとなふる御厨子みずしうちから、天女てんにょ抜出ぬけいでたありさまなのは、あてに気高い御簾中である。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
三ツうろこの大紋打った素襖すおう烏帽子えぼしの奉行の駒を先にして、貝桶、塗長持ぬりながもち御厨子みずし、黒棚、唐櫃からびつ屏風箱びょうぶばこ行器ほかいなど、見物の男女は何度も羨望の溜息をもらしていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御厨子みずしの前は、縦に二十間がほど、五壇に組んで、くれないはかま白衣びゃくえの官女、烏帽子えぼし素袍すおうの五人囃子ばやしのないばかり、きらびやかなる調度を、黒棚よりして、膳部ぜんぶながえの車まで、金高蒔絵きんたかまきえ
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが、ふと内陣の壇を仰ぐと、御厨子みずしのうちには本尊仏もなかった、香華こうげびんもない、経机きょうづくえもない、がんもない、垂帳とばりもないのである。吹きとおる風だけがさわやかであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聖観音の御厨子みずしの側壇には、主君信長の俗名をしるした仮の位牌いはいが仰がれたからである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ばかな奴めら。きつねたぬきはいるだろうが、神や仏なんてものがあるならお目にかかりてえくらいなもんだ。おうっ兄弟、その御厨子みずしすだれを引ッいでみろ。宋江のやつ、もしやそこかもしれねえぞ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)