めぐら)” の例文
中央のホールを囲む客席のボックスも、全面が真赤な天鵞絨びろうどで張りめぐらされた、一国の首都には適当な設備の完備した豪華なものだった。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
遺言ゆゐごんせられしに秀忠公も亦深慮をめぐらされ京都へ御縁組遊ばし其上にて事をはからはんと姫君お福の方を後水尾院ごみづのをゐんの皇后に奉つらる之を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
僕はそれを見て種々想像をめぐらしている内に、ふとある事を想出した。天来の妙音みょうおんとでもいうか、実にすばらしい考えなんだよ。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼女は、七八歳の子供の頃、店の小僧に手伝って貰って、たもを持ってよく金魚やふなをすくって楽しんだ往時を想いめぐらした。
晩春 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
宮の肩頭かたさきりて貫一は此方こなたに引向けんとすれば、すままに彼はゆるく身をめぐらしたれど、顔のみは可羞はぢがましそむけてゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
馬場和泉守こと槍垣の門徒共を語らひ当家を傾けんとして寄々より/\はかりごとめぐらす由、その證拠は此れを御覧あるべしとて、懐中より一通の密書を取出し給ふ。
彼の女は、時々こんな山里へ来るやうになつた自分を、その短い過去を、運命を、夢のやうに思ひめぐらしても見た。
浮世の渡りぐるしき事など思ひめぐらせば思ひ廻すほど嬉しからず、時刻になりて食ふ飯の味が今更かはれるではなけれど、箸持つ手さへ躊躇たゆたひ勝にて舌が美味うまうは受けとらぬに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
と案じける時、前句に声の字ありて、音の字ならず、依て作りかへたり、須磨の鼠とまでは気をめぐらし侍れども、一句連続せざるとのたまへり。予が云、是須磨の鼠よりはるかにまされり。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
水は方円の器に従うが如く、私はそれに応じての私の身を置くに適当な何かを以て飾り立て、ぼろぎれを張りめぐらし、工夫をこらして心もちよく住んで見せるだけの自信はあると思っている。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
また予想するほどの必要が微塵みじんもないことですけれども、島の検分におもむいた船長さんと田山さんの一行の上に、何かの異変が——というようにまでもお松は念をめぐらしてみるのであります。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
隆景の武略、諸将を圧していたのである。さて隆景等が退いた開城には、既に李如松等代って入り、京城攻略の策戦をめぐらした。銭世楨せんせいていは自重説を称え、奇兵を出して混乱に乗ずることを主張する。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
生活に懐疑と倦怠けんたいと疲労と無力さとをばかり与える日常性をのみ撰択せんたくして、これこそリアリズムだと、レッテルを張りめぐらして来たのである。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
かため種々に思案しあんめぐら如何いかにも天一坊怪敷あやしき振舞ふるまひなれば是非とも再吟味せんものと思へど御重役方は取上られず此上は是非に及ばず假令たとへ此身は御咎おとがめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
庄太郎は最早もはや十分安心することが出来た。そして、昨日の刑事がいずれ又やって来るであろうが、彼が来た時にはああしてこうしてと、手落なくはかりごとめぐらすのであった。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
各〻の陣小屋の周囲には、それ/″\麾下きかの将卒の紋を染め抜いた陣幕がめぐらしてあり、小屋の入り口には制札が立てゝあり、旗、指物さしもの、長柄、などが幕の蔭に置いてあった。