巡邏じゅんら)” の例文
陣中を巡邏じゅんらする警板の響きがする。……周瑜はとみればなお前後不覚のていたらくだ。残燈の光淡く、浅ましい寝すがたに明滅している。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
断然の兵士の巡廻じゅんかいを廃し、改めて巡邏じゅんらうものを組織し、後にこれを巡査と改名して東京市中に平和穏当の取締法が出来ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それから間もなく、六人の男が、別々に少し間をおいて、壁に沿って進んでき、密行の巡邏じゅんらのようなふうで、プリューメ街にはいってきた。
従来羽織袴はおりはかまに刀を帯びて席上にすわっていたものに筒袖つつそでだん袋を着せ舶来の銃を携えさせて江戸城の内外を巡邏じゅんらせしめるようになったというだけでも
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼方かなたの橋のたもと此方こなたの長屋の裏で、彰義隊の落武者が、薩長の巡邏じゅんら兵に見付けられ、縛られ、斬られる有様を、吐気を催すような嫌悪と、病的な熱情とで
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
仲裁に出るものがあろうとも思われない、夜番や巡邏じゅんらが通りかかっても、見て見ぬふりして通り過ぎるだろう。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうそう、宿は「神主」館ラジュラーナでしたよ。そして僕は、そのときヘミングウェー嬢の部屋にいました。外は、ザクザクガチャガチャという音で巡邏じゅんらが絶えません。
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その電線の経路九十二マイルの間は近辺の樹林を切り開き、また人の近づかぬように不断巡邏じゅんらしている。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
たちまち彼は、巡邏じゅんらの警吏に捕縛された。調べられて、メロスの懐中からは短剣が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。メロスは、王の前に引き出された。
走れメロス (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかれども地方の巡邏じゅんら甚だ密にして、官船を除くの外、一切近づきすすむを許さず、これがために踟蹰ちちゅうす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
バッキンガム宮殿のまわりを、機械人形のように巡邏じゅんらしている華やかな服装の若い近衛兵ローヤル・ガイドが、そのとき伸子のすぐわきで、まじめな顔つきで規則正しいまわれ右をした。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
第四は大阪港湾局の巡邏じゅんら船の乗組員四名の怪死、第五は敦賀つるが、第六は静岡県沼津、第七は横浜、——こうして七件の怪殺人がいずれも犯人不明のまま、第一の地の長崎から
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この道路に出ればもうナイト・クラブ側の巡邏じゅんらは俺たちを捕えることができないと言う。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
頤紐あごひものかかったおもてをあげて、丁度ちょうどその時刻、帝都防護飛行隊が巡邏じゅんらしている筈の品川上空を注視したが、その方向には、いたずらに霧とも煙ともわからないものが濃くめていて
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この日の夕方、体操の教師が校舎の外囲を「巡邏じゅんら」したとき、彼の靴先に白いものがかかった。彼は何気なく取り上げてみた。「吉倉和歌子様」とその状袋の表紙には書かれてあった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
銀座の市場では阿片あへんの花が陽気に満開し、薬種屋の前では群集が巡邏じゅんらに口輪をめている。地球の地下室では切開された、メロ・ドラマの開演のベルがけたたましく鳴りひびくのだった。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
毎晩、お家に伝わる神通力をうつつして、奉行所の離れの間の庭先へ忍び込み、小みどりの様子を窺うのであったけれど、武士共の巡邏じゅんらきびしく、たやすくは彼の一室へ寄りつけそうもない。
純情狸 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
そしてかつては或る役所のとして夕暮から夜更けの川筋を巡邏じゅんらの軽舟に揺られて行つたことのある私にとつては、私がの物語を始めた句はさほど私たちの都市東京にそぐはないものとも思へない。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
遊芸園の東隣の女子学校へ、巡邏じゅんらの支那兵が昼間闖入ちんにゅうした。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
輦轂れんこくの下巡邏じゅんらを見ざること数日に及べり。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ましてここの家をっとくはずはありません。役署の捕手頭とりてがしら趙能ちょうのう趙得ちょうとくのふたりが、たえず部下に巡邏じゅんらの目を光らせているんです
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
テーブルの上には、一本のペンと、鉛のインキつぼと、少しの紙とがのっていた。不時の調書や夜間巡邏じゅんらの訓令などのために備えてあるものだった。
一方には夥しい提灯をかざして来る事のていというものが、普通の巡邏じゅんらとは巡邏のおもむきを異にし、いわば
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十日ほど経って、王様は国を巡邏じゅんらされて、どこもかしこも、自分と同じ者ばかりで、もう一言の悪口も聞かれないのに、すっかり満足させられて、思わず王しゃくを振りあげながら、万歳! と叫ばれた。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その晩、巡邏じゅんらの人々は、彼がある建造中の船の竜骨の下に隠れているのを見い出した。彼は自分を捕えにきた守衛に向かって抵抗した。脱獄と抵抗。
差撥さはつの部下らしい巡邏じゅんらが、小屋の隙間から内を覗いていった。その跫音も、吹雪の吠えにすぐ掻き消え、小屋の灯はまたすぐもとの寂寞せきばくに返ってゆく。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市中を巡邏じゅんらして、このところに通りかかったのだが、この安全地帯の、柳の木の前の高札場の下の、つまりがんりきの百蔵が只今、生得の隠形おんぎょういんを結んでいるところの、つい鼻の先まで来て
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼が屋根の斜面の所へ達して、壁の頂から離れようとした時に、激しい音が巡邏じゅんらのやってきたことを示した。ジャヴェルの雷のような声が聞こえた。
一方は西門道から村々を巡邏じゅんらしてゆき、また一方は、東門街道を出て県下を巡り、途々みちみち賊あらば捕え、民の難あらば助け、そして二た手の巡警隊は、東渓村とうけいそんの山上で落ち合い
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
巡邏じゅんらの人々は、耳を澄ましたが何にも聞こえず、目を定めたが何にも見えなかった。彼らは互いに相談を始めた。
時刻ごとに見廻りにくる巡邏じゅんらの一隊であろう。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
バーティマン・ヌーフ(新館)の一階にある寝室を視察していた巡邏じゅんらの監視が、箱の中に巡邏証票を入れようとする時——この、証票を箱に入れることは
囲いのない土地や、建築中の家や、橋の下などで、巡邏じゅんらの警官らから当時毎年拾い上げられた宿無しの子供は、統計によると平均二百六十人くらいはあった。
それはジャヴェルが道で出会って助力を求めた巡邏じゅんらの兵士らであったろう。その推測はまちがいなかった。
イギリスの陣営の巡察や巡邏じゅんらの兵士らのゆききする足音が、ぼんやり遠くに聞こえていた。
しかしそこにきて以来、ひとりの巡邏じゅんらを除くほかだれも街路を通る者はなかった。
彼らは司教の宮殿内において巡邏じゅんらをなし秩序を維持し、司教の微笑をうかがう。司教の気にいることは、副助祭になるについて既にあぶみに足をかけることである。人は巧みに自分の途を開くことを要する。