小樽おたる)” の例文
小樽おたるへソれん兵が二万上陸したから、戦時研究関係の重要書類を直ぐ焼却しろという話なのである。もうみんな非常呼集で集っているという。
流言蜚語 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
いま小樽おたるの公園にる。高等商業こうとうしょうぎょう標本室ひょうほんしつも見てきた。馬鈴薯ばれいしょからできるもの百五、六十しゅの標本が面白おもしろかった。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
五月二十五日 風生等と共に仙台俳句会に臨み、小樽おたるに高木一家を訪ひ、帰路大鰐に手古奈に会す。加賀助旅館。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
その反抗はつねに私に不利な結果をもたらした。郷里くにから函館はこだてへ、函館から札幌さっぽろへ、札幌から小樽おたるへ、小樽から釧路くしろへ——私はそういう風に食をもとめて流れ歩いた。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
小樽おたるをすら凌駕りょうがしてにぎやかになりそうな気勢を見せた岩内港は、さしたる理由もなく、少しも発展しないばかりか、だんだんさびれて行くばかりだったので
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
東京の芝浦しばうらだとか、大阪だとか、時には北海道の小樽おたるまで出かけたり、また時によっては九州の港であったり、瀬戸内海の島のさびしい村であったり、とにかく
おるすばん (新字新仮名) / 壺井栄(著)
旅にまで来て、十五、六年前の幽霊をかついでまわるのは何という愚かなことだと、私はつくづく朱筆しゅふでを投げてしまった。小樽おたる色内町いろないちょうのキト旅館の二階での歎息である。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
監視付きの小樽おたるの下宿屋にゴロゴロしていると、樺太かばふとや北海道の奥地へ船で引きずられて行く。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
葉子は縁に近いところ座蒲団ざぶとんを持ち出して、かつて自分の田舎いなかの家へ招いた時以上にも気を配って、庸三を居馴染いなじませようとした。例の小樽おたる以来の乾児格こぶんかくの女流画家や瑠美子もいた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小樽おたるに名高きキトに宿りて、夜涼やりょうに乗じ市街を散歩するに、七夕祭たなばたまつりとやらにて人々おのおの自己おのが故郷のふうに従い、さまざまの形なしたる大行燈おおあんどう小行燈に火を点じ歌いはやして巷閭こうりょ引廻ひきまわせり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして小樽おたるから、直江津へ石炭を運んだ時の、出来事であった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
O君は小樽おたるで下り、余等は八時札幌に着いて、山形屋に泊った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いま汽車は函館はこだてって小樽おたるむかって走っている。まどの外はまっくらだ。もう十一時だ。函館の公園はたったいま見て来たばかりだけれどもまるでゆめのようだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
札幌を去って小樽おたるに来た。小樽に来て初めて真に新開地的な、真に植民的精神のあふるる男らしい活動を見た。男らしい活動が風を起す、その風がすなわち自由の空気である。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
もちろん俄仕込にわかじこみで、粒揃つぶぞろいの新橋では座敷のえるはずもなく、借金がえる一方なので、河岸かしをかえて北海道へと飛び、函館はこだてから小樽おたる室蘭むろらんとせいぜい一年か二年かで御輿みこしをあげ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二三百万円の富を祖先から受けいで、小樽おたるには立派な別宅を構えてそこにめかけを住まわせ、自分は東京のある高等な学校をともかくも卒業して、話でもさせればそんなに愚鈍にも見えないくせに
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「もし、室蘭になかったら小樽おたるか、函館はこだてから呼ぶんだ。えーっと、しかし、そうすると横浜帰航が大変おそくなるね。だが、室蘭に五人や十人の船員がないってことはないだろう。君は調べて見たかね」
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
六月二十一日 小樽おたるに向ひ、和光荘泊り。
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
津軽海峡つがるかいきょう、トラピスト、函館はこだて五稜郭ごりょうかく、えぞ富士ふじ白樺しらかば小樽おたる、札幌の大学、麦酒ビール会社、博物館はくぶつかん、デンマーク人の農場のうじょう苫小牧とまこまい白老しらおいのアイヌ部落ぶらく室蘭むろらん、ああぼくかぞえただけでむねおどる。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)