いき)” の例文
だから津田は手もなくこの叔父に育て上げられたようなものであった。したがって二人の関係は普通の叔父おいいきを通り越していた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とにかくそのはじめは切じつな人間生くわつ慰樂いらくとしてあそびとしてつくり成された將棋せうきちがひないとおもふが、それを慰樂いらくあそびのいきを遙にえて
要するに、いくら城持となっても、眷族けんぞくや家臣がふえてきても、彼は依然たる猛将のいきから一歩も出ていないところがあった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神変夢想流しんぺんむそうりゅうにおいて、もっとも重くかつ、もっとも到りがたしとなっている忘人没我ぼうじんぼつがいきに、今宵の栄三郎は期せずして達しているのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二人はその後月を重ね年を経ても一向この遊戯を中止する模様がなかったかえって二三年後には教える方も教えられる方も次第に遊戯のいきを脱して真剣しんけんになった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
したがつて地震動ぢしんどう性質せいしつ地震ぢしん損傷そんしようしない土木工事どぼくこうじや、建築けんちく仕方しかたとうについての研究けんきゆう非常ひじようすゝみ、木造もくぞうならび西洋風せいようふう家屋かおくにつき耐震構造法たいしんこうぞうほうなどほとんど完全かんぜんいきすゝんだ。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
兎に角部分的には最早もう偕白髪ともしらがと云ういきに達した訳である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いよいよ明日あすまんじ丸が出るという今宵。お船蔵の混雑にまぎれて、大胆にも、この下屋敷のいきまで足を踏み入れてきた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕の考では人間が絶対のいきるには、ただ二つの道があるばかりで、その二つの道とは芸術と恋だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あんずるに春琴の稽古振りが鞭撻のいきを通りして往々意地の悪い折檻せっかんに発展し嗜虐しぎゃく色彩しきさいをまで帯びるに至ったのは幾分か名人意識も手伝っていたのであろうすなわちそれを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もちろん、実戦でもそのいきを越えてはならん。——はや高ノ師泰を先鋒せんぽうにやったそうだが、その師泰の軍勢にも、三河の矢矧やはぎから西へは進み出るなと固くいましめておけ。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうした意味から見ると、彼女はありふれたしっかりもののいきはるかに通り越していた。あの落ちつき、あの品位、あの寡黙かもく、誰が評しても彼女はしっかりし過ぎたものに違いなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんで慈円僧正のような人がそんな愚をなそうか、僧正はすでにたまである、明朗と苦悩のいきをとうに蝉脱せんだつした人格は、うしろから見ても、横から見ても、「禁慾の珠玉」そのものである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聞説きくならく、曹丞相は、文を読んでは、孔孟の道も明らかにし得ず、武を以ては、孫呉そんごいきにいたらず、要するに、文武のどちらも中途半端で、ただ取得とりえは、覇道強権はどうきょうけんを徹底的にやりきる信念だけであると。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安住のいきでもありません。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)