うずも)” の例文
チタ子はひどく憂鬱そうな顔をして狭苦しい椅子にうずもれていましたが、私が、自分の席へ誘うと、黙々として私の卓子テーブルにやってきて
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
鳴子なるこ案山子かかしの立っているあたりから折々ぱっと小鳥の飛立つごとに、稲葉にうずもれた畦道あぜみちから駕籠かごを急がす往来ゆききの人の姿が現れて来る。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
清三が今度の弥勒みろく行きを、このうえもない絶望のように——田舎いなかうずもれて出られなくなる第一歩であるかのように言ったのを
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この雪にうずもれた不安な生活の上に、陰鬱いんうつな日々がただ明け暮れて行くのを、じっと我慢して春を待つより仕方がなかった。
もともと会社などにうずもれているべきはずの人では無いが、年をとった母様おふくろを養う為には、こういうところの椅子にも腰を掛けない訳にいかなかった。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
花の白いのにさえおびえるのであるから、雪の降った朝の臆病思うべしで、枇杷塚びわづかと言いたい、むこうの真白の木の丘にうずもれて、声さえ立てないで可哀あわれである。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日も暮よ、夜も来よと自暴やけの気味であるが私もかなり疲れて居るから励ます言葉も出ない。只どうにかして例の丈なす草にうずもれた峻坂しゅんはんを下る間だけなりと、暗黒まっくらにしたくない。
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
女房は西向の暗い室で、厚い木綿を手許覚束おぼつかなげに縫うては、他人の針仕事をして家計の助けをやっている。春は青葉で暗く冬は雪にうずもれる田舎町で、一人の息子の成功を神に祈っているのだ。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
光厳院こうごんいん法皇の御分骨をおさだめしてある霊地といい伝えておりますが、足利の世このかた、御垣みかきは仆れ、朽葉にうずもれ、あまりに荒れはてておりますので——今日はふと、朝から母といいあわせて
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「雪の中に何かうずもれてゞもいるような事を考えたのでしょうか」
「——……あなたを娼婦として、僕はおつき合いしたいんです。」と、云いながら、僕は外套をると、ソファにうずもれて青い小切手帳を示した。
はげしく手の震いたればか、何のはずみなりけむ、火箸横に寝て、その半ばうずもれしが、見る間に音もなく、ものの動くともなく、灰の中にとぼとぼと深く沈みたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唐紙を隔てた次の部屋には、三吉が寂しい洋燈ランプむかって書物をひろげていた。北側の雪は消えずにあって、降った上降った上へと積るので、庭の草木は深くうずもれている。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小止おやみもなく紛々として降来ふりくる雪に山はそのふもとなる海辺うみべの漁村と共にうずも天地寂然てんちせきぜんたる処、日蓮上人にちれんしょうにんと呼べる聖僧の吹雪ふぶきに身をかがめ苦し山路やまじのぼり行く図の如きは即ち然り。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
どうだろう、それが最早もうすっかり初夏の光景に変って了った。一週間前、私は昼の弁当を食った後、四五人の学生と一緒に懐古園へ行って見た。荒廃した、高い石垣の間は、新緑でうずもれていた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おつうずもるゝ
うずもれし黄金こがね